Monologue

2006年11月03日(金) 誰も止められない(『カブト』ネタです)

「はいどうぞ!師匠、
 これが頼まれてた加賀美先輩のサイン入りCDで〜す!」

CDの売り子の手伝いを終えて天道家にやって来た蓮華は、
すぃ・・・と一枚のCDを天道に差し出した。

「そうか、ご苦労だったな・・・幾らだ?」

「税込1050円になりま〜す♪」

ちなみに、
このCDは売り子手伝いの謝礼として加賀美が剣と蓮華に、
それぞれ『無料』でくれたモノであるが、
彼女は天道が差し出した千円札と50円玉をしっかり受け取った。

「ありがとうございま〜す! 師匠!
 それじゃアタシ、本部に戻りますね〜」

そう言って踵を返そうとした蓮華の背中に向って、
天道は想わず声を荒げた。

「おい、蓮華!

何故、加賀美のサインの横に 、
“蓮華へ
売り子サンキュ!
これからもヨロシクな!“などと云う余計な字が書いてあるんだ!?」

「あ、それはぁ〜〜
そのサインは加賀美先輩が『アタシ』に書いてくれたからでぇ〜〜す」

“全く余計な事を・・・”と、
苦々しく呟きながらCDを見つめている天道に対して、
蓮華はプゥと唇を尖らせた。

「それがイヤなんだったら、
 直接、加賀美先輩に頼んでCDにサインして貰えば良いじゃないんですかぁ〜?
加賀美先輩は優しぃから、すぐにサインしてくれますよ?」


「……バカも休み休み言え、
 アイツにそんな事が頼めるか」

フ…ッと、長い睫毛に縁取られた瞳を伏せながら、
苦いモノを吐き捨てる様に小声で呟く天道の態度に
蓮華は細い首を傾げる。

「え?
だって、師匠と加賀美先輩は『お友達』なんですよね〜?だったら・・・」


その時、リビングの扉が“バン!”と大きな音を立てて勢い良く開かれた。

「やったぜ!天道!あのCD完売したぞ!」

サイン入りCDを完売した後、
じいやに借りた屋台を返却した加賀美は、満面の笑みを浮かべて現れた。

「お、蓮華!
さっきは売り子サンキュ〜な!」

「あ?え、ええ・・・」

加賀美に掛けられた言葉に頷きながら、
チラ・・・リと盗み見た天道の表情は、
既に普段通りのポーカーフェイスに戻っており、
その表情から蓮華は何の感情も読み取る事が出来なかった。

「それにしても、
まさか1000枚完売するとはな・・・お前もなかなかやるじゃないか?」

“ああ!”と加賀美は力強く頷きながら、
力強く右手の親指を“グッ!”と立ててみせる。

「最初はどうなる事かと想ったけどな・・・
そう云えば今週のオリコンでも結構上位にランキングしてるらしいぜ♪」

「ああ・・・初登場23位だっだな」

「そうそう23位!
・・・って、何でお前が知ってんだ?」

すると、
また“バン”と音を立ててリビングの扉が開いて、
セーラー服姿の樹花が現れた。

「ただいま!お兄ちゃん!・・・あ!加賀美さん、来てたんだ!」

加賀美に気付いた樹花は嬉しそうに瞳を輝かせながら、
黒い学生鞄を開けると、
中から紺色のビニール袋に入った薄く四角い物体を取り出した。

「見て見て!加賀美さんのCD買っちゃった!」

「え?マジ?!」

“ガサガサ・・・”と乾いた音を立てながら、
ビニール袋から取り出した『LORD OF THE SPEED』のCDを見ると、
加賀美は嬉しそうに声を上げた。

「わ〜!ありがとう!樹花ちゃん!」

「おい樹花!
 オレがやった小遣いをそんなモノの為に無駄に使うな!」

「悪かったな! 『そんなモノ』で!」

ギロッ!と加賀美は鋭い視線を天道に向ける。

「大体あんな×××な歌を、
わざわざ金を出して聴くヤツの気が知れない……」

ブツブツと悪態を吐き始めた天道を無視する様に、
加賀美はわざと明るい声を出してみせた。

「ありがとな!樹花ちゃん! お礼にサイン書いてやるよ!
後で絶対に値打ちが出るぜ♪」

「わ〜い!嬉しい!」

その瞬間、
“グッ・・・”と天道が息を呑んだ音を、
傍らに立っていた蓮華だけが聴いた。

「あ!加賀美さん!サインに“樹花ちゃんへ”って入れて!」


「了解! え〜と“樹花ちゃんへ”・・・っと」




(直接、加賀美先輩に頼めば良いんじゃないんですか?)


先刻の蓮華の言葉が、
天道の耳の奥底で鈍いエコーを纏って響く。


(ダメだ)


それは、

それは出来ない。


何故なら、


(オレとアイツは『友達』じゃないから・・・)


では、
 
ではオレ達は一体何だ?



『友達』でなければ一体・・・




「ほら!樹花ちゃん!」

「わ〜い!ありがとう!加賀美さん!」

加賀美から差し出されたサイン入りのCDを受け取った樹花は、
天道の方を振り返り無邪気な口調で言った。

「お兄ちゃんもサインして貰えば?

ほら!昨日(10月31日)
『アマゾ●』から届いてから、ず〜っと聴いてるヤツに・・・」




(以上『ツンデレバレバレの巻』完結であります♪


いつにも増して長々と失礼致しました。

本当はもっとシンプルな話の筈だったのに・・・
 
そもそも話なんかぢゃなく、
いつもの軽いネタだった筈なのに(涙))


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