Monologue

2006年10月18日(水) ヒトガタ



辻村ジュサブローさんの人形と講演会を観に行く。


あんなに繊細な人形を創られる方だから、
さぞかし芸術肌で気難しく頑固そうな方かと想いきや、
私達の前に登場したのは丸顔に眼鏡を掛けた禿頭の優しそうなお爺ちゃんだった。


その穏やかな外見と人形のイメージがすぐには結び付かなかったのだが、

「さて、ちょいと一踊りしましょうかね」

そう言いながらジュサブローさんの肩に担ぎ上げられた人形は、
みるみる内に肩を落として佇む一人の女性の姿に変化してしまった。

ジュサブローさんに操られている人形は、
まるで生命を吹き込まれたかの様に音楽に合わせて、
蝶の様にヒラヒラと華麗に舞い踊る。

優れた人形遣いの方が操作すると、
いつの間にか観客は人形の動き『だけ』を瞳で追う様になってしまうので、たとえ黒頭巾を被っていてもいなくても遣い手の存在は全く気にならなくなってしまうのだ。


「僕は73歳なんですが今でも筋トレして鍛えています・・・何しろ人形は重いですからね」


踊り終わったジュサブローさんは人形について、色々な事を語って下さった。

たとえば人形が挿しているかんざしやアクセサリーは、

「ウチのお婆ちゃんが亡くなって、もう付ける人が誰もいなくて勿体無いから」と、
ファンの方達が送って下さった物を一切加工せず、そのまま使用なさっているそうだ。


「箪笥にしまい込んでおくよりも、
こうやって、お客さん達に『元気』を与えてくれる人形達を飾った方が、
ずっと供養になりますよ」


また人形が着ているドレスは、
人間用の古着をキレイに洗って縫い縮めた物なので、
糸を解けば、またちゃんと着られるのだそうだ。


「こうして、お金を掛けずに古いモノを利用して何かを創る、と云うのが、今の社会と正反対の考え方なのが残念です」


ジュサブローさんのご自宅には古い生地やらアクセサリーが山程有り、それらを再利用して、あの美しい人形達を創られているのだそうだ。


『モノ』が豊かになればなる程、人間の心が貧しくなって行くのは一体何故なのだろう?

お金を沢山稼げば稼ぐ程、モノを大切にしなくなったり、夢を見れなくなってしまったり・・・



「辛くて大変な今の世の中だからこそ、

こうやって僕の人形や踊りを観た人達が少しでも『元気』になって欲しい」と、

ジュサブローさんは熱い語りを締め括られた。


年齢に関わらず、
こうしてキラキラ輝いている人達の豊かな表現に触れると本当に『元気』になれる。


今度、人形町にある『ジュサブロー館』を尋ねてみよう。

また沢山の『元気』を貰えそうだ。


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