Monologue

2005年01月08日(土) Frozen Lip 2

「悪ィ……」

「いや、私も少し言い過ぎた様だ……」

先刻の映画館にしても他の映画館にしても二人が観たいと想える映画は上映されておらず、行き場を無くした二人はトボトボ……と駅に向かって歩き続ける。

「ま、仕方無ェよな、来週の休みにでも、また観に来ようぜ」

「ああ、そうだな……」

“ポリポリ”と大量に買い込んだ『ポップ・コーン』を頬張りながら、
レオリオはクラピカの手元に握られたアイスクリームにふと視線を落とす。

ワッフルコーンに盛り付けられたアイスを、
スプーンで少しずつ口に運んでいるクラピカの唇から“ハァーッ”と吐き出される白い吐息は、
見ているレオリオの方が凍えそうになる程に冷たそうだ。

この季節に外でアイスを食べると云う行為は幾らコートを着込んでいるとは云え、
まるで『我慢大会』である。

普段通り、レオリオの車で出掛けて来ていれば、
ヒーターが効いた車の中で食べさせてやれたのだが、
ミニシアター映画を上映している映画館の有るこの街には、
長時間車を停めておける場所が無いので、今日はわざわざ電車で来たのだった。

(せめて、北風が当たらねェ処で……)

しばらく歩き続けて、
ようやくショッピング・モールの片隅に空いている白い瀟洒なベンチを発見したレオリオは、
クラピカを促して其処に並んで座った。

「ほら、さっさと喰っちまえよ」

「ああ、すまない」

クラピカはスプーンに盛ったアイスを口に運ぶ。

“ハァ……”と寒そうに冷たい息を白く吐きながら、ガタガタと小刻みに震えている。

レオリオは寒さから身を護ろうと本能的に丸められているクラピカの背中に、
そ…っと右掌を乗せる……と、

「もう少しこっちに寄れよ、寒いだろ?」

そう言いながら、小刻みに震えているクラピカの細い身体を抱き寄せた。

「……ああ、すまない」

“ハァ……”と白い息を吐きながら、いつになく素直にクラピカが答えるのを聴いて、
レオリオは内心密かに驚愕する。


幾ら片隅とは云え、人通りの多いショッピング・モールのベンチで、突然抱き寄せたりしたら、

「公衆の面前でいきなり何をするのだ!この恥知らずが…!」

次の瞬間には『伝説(?)の右フック』がレオリオの左頬に炸裂する筈だと云うのに……


やはり余程、寒いのだろう。


そんなに我慢しながら食べる必要も無いとは想うのだが、
レオリオ同様、クラピカも食物を捨ててしまうと云う選択肢が生理的に許し難いらしい。

(ったく……腹こわすなよ)


ふと、掬ったアイスが運ばれて行くクラピカの唇にレオリオは瞳を留める。

(え?)

“ハァ……”と白い息が吐き出されるクラピカの赤い唇・……

寒さの所為か普段よりも白く見えるクラピカの肌と対照的に、
アイスに冷やされて、いつもより赤味が差した彼の唇は、

まるで冬に凍えた小さな薔薇の花の様に可憐で・……

キスしたら、きっと氷みたいに冷たくて……


「……欲しいのか?」

唐突に心の底を見透かされた様な台詞が白い息と共に吐き出されて、
レオリオは思わず“ドキッ!”とする。


「何だか、随分物欲しそうな顔をしていたぞ?欲しいのか?」

「いや……あの、その……」

「もし欲しいのなら、ちゃんとそう言えば良いではないか?今更遠慮する事はないぞ…」

じっ…とレオリオを見つめているクラピカの瞳の中に燃えている緋赤色の火焔、
そして、その下の、
“クス…ッ”と意味深な微笑みを浮かべる、誘う様な唇の赤……


(も、もしかして…これは俗に言う『据え膳』と云うヤツじゃ?)


“ゴク…ッ”と唾を飲み込んだレオリオが、
グィッ!とより強くクラピカの身体を抱き寄せ様とした途端、

「ほら」

瞳の前にワッフルコーンに盛り付けられた食べ掛けのアイスがすぃ…と差し出された。

「もし食べたいのならば、ちゃんとそう言えば良いではないか?」


(どうせ、んな事だろうと思ったぜ、ったくよォ……)

ガックリと肩を落としながら、レオリオはクラピカが差し出したアイスを渋々受け取ると、
アイスに突き刺さっているスプーンを引き抜き、一匙掬って口に運んだ。

口の中に冷たさと相俟ってほんのり酸っぱい甘味が拡がって行く……

甘い物が苦手なレオリオも決して嫌いな味では無いフローズン・ヨーグルトだったが、
今日は何故か一際酸味が強い様に感じられて涙が出そうになる。

一匙食べただけでレオリオがアイスを返すと、クラピカは怪訝そうな表情をして、

「もう、いらないのか?」

「ああ」

「後で欲しいと言っても、もうやらないぞ?」


“ハァ……”と白い息と一緒に、
つれない台詞を吐きながら微笑むクラピカの赤い唇も、
きっと、さっき食べたアイスみたいに冷たくて、ほんのり甘いのだろう、

まるで氷の様に……





(いつまで同じ事、繰り返してんだい自分(涙))


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