Monologue

2004年10月29日(金) 難船小僧〜S・O・S・BOY〜

大河ドラマ『新選組!』で大久保利通役を演じていらっしゃる保村大和さんの一人芝居
『難船小僧〜S・O・S・BOY〜』を観劇。

『難船小僧〜S・O・S・BOY〜』は夢野久作の短編だが滅多に取り上げられ無い話なので、
保村さんは余程夢野久作フリークなのかしら?と想っていたが、そうでは無く、
一人芝居に使えそうな物語を探している時に知り合いの方から薦められたのだそうだ。

“夢野久作の話は一人称でモノローグ形式で語られている物が多いので、
原作をそのまま読んでも充分一人芝居になるのではないか?”と。

確かに、そうだ。
一応夢野久作ファンで全集も持っていると云うのに全然気が付かなかった(←バカ)

物語の内容は昭和2年に貿易船の機関長を勤めていた男の独白。

難船小僧〜S・O・S・BOY〜とあだ名される美少年、伊那一郎、
彼を乗せた船はことごとく沈むと云う曰くのあるその美少年を、
貿易船の船長が迷信も恐れず船に乗せてしまった事から始まる怪奇譚。

元々、夢野久作の文章は退廃的な色気と艶が有るのでゾクゾクさせられる。

たとえば伊那一郎の妖艶さを描写する処、

“毬栗の丸い格好のいい頭が、若い比丘尼みたいに青々としている。
皮膚の色は近頃流行のオリーブって奴だろう。

眼の縁と頬がホンノリして、唇が苺みたいだ。

睫毛の濃い張りのある二重瞼、青々と長い三日月眉、スッキリした白い鼻筋、
紅い耳朶の背後から肩へ流れるキャベツ色の襟筋が女のように色っぽいんだ。
青地に金モールの給仕服が身体にピッタリと吸付いているが、
振袖を着せたらお化粧をしなくとも坊主頭のまんま、生娘に見えるだろう。
なるほど毛唐が抱いてみたがる筈だ……”
(『夢野久作全集3』三一書房刊より引用)

本当に綺麗な文章だ(としか言えない己のボキャブラリーの貧困さが呪わしくなる(涙)

この文章が保村さんの響きの良い美声で語られる。

会場は普段は居酒屋として営業している、かなり狭い『アートスペース』だが、
一人の男が淡々と怪奇譚を語るにはふさわしいキャパシティ。

広くて立派な劇場も良いが、
役者さんの息遣いがリアルに感じられる位の狭い空間の方が密室感が有って私は好きだ。

保村さんは手元のスイッチで照明を操作しつつ、アルミ缶(みたいな素材)に穴を空けて
造ったマスクを操り人形に仕立てて、物語を語って行く。

役柄ごとに口調をガラリと変えて何役も演じ分けられるのは流石!!

昔『惑星ピスタチオ』の舞台で拝見した保村さんの姿を回想する(懐)

たまに演じ分け切れなかったり、小道具が捌き切れなくてテンパっている姿に、
却って本当に素人の機関士が語っていると云う妙なリアリティを感じてしまう(←誉めてます)

特筆すべきは保村さんが本番一週間前に突然思い付いて作成したと云う小さな銀色の船。

この船が天井からテグスでぶら下げられているのだが、
光の加減でテグスが見えなくなるので本当に宙に浮いている様に、
そして嵐の海に揺られる7トン船の様に見えて来るから不思議だ。

やがて物語は終盤へ……

沈没を恐れた一船員の手で殺されていた難船小僧の遺体を乗せたままにした事に依って、
幾日も幾日も幾日も同じ場所を漂流し続ける船。

難船小僧の死体を海に捨て、危うく難を逃れた後、

「やはり理外の理、と云うのは有るんだねェ……いや面白い実験だった」と船長は微笑う。

難船小僧を乗せたのは祟りや迷信、理外の理と云う現象は果たして本当に有るのか?と云う
船長の実験だった、という結末。

だが最後に機関長が、

「オレは難船小僧が着ていた青地に金モールの給仕服に付いていたボタンを
チベット紅茶の空缶に入れて取っておいたんだ、
そのボタンがカラカラカラ……と鳴る音を聴きながら、オレはしばらくの間、船乗りを続けた」

原作には無いオリジナルの台詞を言いながら、
暗転の闇に消えて行く保村さんの姿と彼の手にぶら下がっているチベット紅茶の缶の中から聴こえる“カラカラカラ……”と云う音が物凄く怖かった。

保村さんが懸命に手造りした表現がリアルに伝わって来る素晴らしい舞台だった。

しかも何と!!

終演後、

「この後、ボク、ここでパーティを開きますので残れる方は残って一緒に乾杯して下さい」

……なんて事をおっしゃるではないか!!!

一人で観に来たので恥ずかしかったが、せっかくの機会なので思い切って残った。

参加費は1000円&ドリンク代のみで、美味しい料理は食べ放題!!

保村さんはファンサービス旺盛で参加した全員ときちんとお話して下さって、
ミーハーな私はもう大感激!!!

少ししかお話出来なかったが、やはり発想力が普通の方とは全然違う。

保村さんの頭蓋骨の中身はとてつもなくスゴイ脳髄が入っているんだなぁと感じた。

また観客席には、元『惑星ピスタチオ』の座付作家の西田シャトナーさん他、
有名な俳優さんも来ていらして、
保村さんも含めて沢山の神様に出会ってしまった様な素敵な一夜だった、満足(^^)


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