Monologue

2003年09月10日(水) クラピカの『“NO!”を聞かないイタリア人』日記

全く……イタリア人の辞書に“NO!”と云う単語は存在していないのか?

正確に言うと“イタリア男の辞書”にはだ。

1日の辛く厳しい仕事を終えた後、
一人暮らししているアパートに向かってそんな事を考えて歩きながら、私は重い頭を抱える。

毎日、毎日、毎日……
晴れの日も、雨の日も、落雷で山手線が3時間も止まってしまったあの日も、
あの男は私のアパートの前で待ち構えていた。
真っ赤なバラの花束を両腕に抱えて……

短く刈り上げた黒髪の、やたら体格の良いそのイタリア男は、
時々私が夜食を買いに行く近所のコンビニエンス・ストアの店員だった。

行く度に賞味期限切れのおにぎりやパン、サラダなどをこっそりオマケしてくれるので、
サービスの良い店だなvvと好ましく感じていたのだが……

ある日、仕事から帰るとアパートの階段の前に、
何と!あのイタリア男がバラの花束を抱えて立っているではないか!

しかも、
「お前が好きなんだ!頼む!オレとつき合ってくれ!!」

突然の告白に一瞬面食らってしまったものの、気を取り直した私は即座にNO!と断った。

「え?何でだよ?」

叱られた子供の様に頬をふくらませる彼はなかなか端整な顔付きをしている。
大抵の女性ならコロリと参ってしまうのだろうが、あいにく私は男性だ。

「特に理由は無いが……」

「じゃ、良いじゃねェか!なぁ、オレとつき合ってくれよ!」

「NO!と言ったらNO!だ!第一私は『男』なのだぞ!!」

「惚れちまったら、んな事ァ関係無ェよvv」

イタリア人にはホモ・セクシャルも多いと聞いていたが『本物』を見るのは初めてだった。



それ以来、

毎日、毎日、毎日・……

晴れの日も、雨の日も、阪神が勝った日も、負けた日も……

私が何度“NO!”と言っても、何度冷たく拒絶しても、何度追い払っても、

翌日には必ずアパートの階段の前で待っているのだ。

1日も欠かさず、バラの花束を抱えて……


どうやら、あのイタリア男の辞書に“NO!”と云う言葉は存在していないらしい。


どうせ、今日も待っているのだろうな、
全く、懲りない男だ。


そう思いながら、アパートに辿り付いた私は、一瞬、我が瞳を疑った。

あのイタリア男がいない。

いつもバラの花束を抱えて待ち構えていたアパートの階段の前に、
今日は誰も立っていないのだ。

そんな……バカな?

キョロキョロ……と辺りを見廻してみたが、あのイタリア男は見当たらない。

やっぱり……
今日は来ていないのか?

毎日、毎日、毎日(以下略)立っていたあの男が今日はいないのかと思うと、
何か…物足りなさを感じる。


まぁ、どうせ、明日はまた来るだろうし……


だが、

次の日も、また次の日も、そのまた次の日も……

阪神の優勝はなかなか決まらなかったし、イタリア男もなかなか姿を現さなかった。


一体、どうしたのだろう?

夏風邪でも引いたのだろうか?

それとも、
単に“NO!”と云う言葉があの男の辞書にも実は存在していたのかもしれない。

あれだけ私が“NO!”と言い続けたのだから諦めるのが当たり前だ。


ふと気付くと、
毎日、毎日、帰宅する度に、私は知らずの内にあのイタリア男の姿を探していた。

しばらくアパートの前に立って、
あの男を待ってみたりしている自分の行動に思わず愕然とする。


私は……
どうしてしまったのだろう?

あんなに煩わしかった筈なのに……

毎日、毎日、毎日(以下略)待ち伏せされるのが、
あれ程イヤで堪らなかった筈なのに……


だが……
辛い仕事から帰った後、
アパートの階段の前に真っ赤なバラを見付けるのを、
いつしか心待ちにしていたのではないか?
自分でも気付かない内に……


あの男はもう、来ないかもしれない……

やはり嫌われてしまったのだろうな。

“NO!”と云う言葉を何度も何度も投げ付けて、
あの男を拒絶し続けたのは、他ならぬ私なのだから……


ピッ!と『SUI○A』を鳴らしながら駅の改札を通り抜け、重い足取りで帰路を辿る……と、


「よォ!」

階段の前にあのイタリア男が立っていた。

この残暑厳しい中にも関わらず、
白いタキシードをピシッと着込んで、両腕に真っ赤なバラの花束を抱えて……

見ている私の方まで何だか暑苦しい。

だが、明らかに暑さとは違う熱が胸の奥底から込み上げて来る。


「よォ!久し振りだな」

「……どうしたのだ?一体」

“ここ数日、ずっと来なかったではないか?”と言うと、

「いや・・…
『阪神優勝』の前祝にちょぃと道頓堀にダイブしたら風邪引いちまってよォ……」

「な!何と命知らずなんだ!お前……あの河に飛び込むなんて!」

ガハハハ…と明るい声を立てて微笑う彼の表情を見て、
私は……なぜかホッとする。

『道頓堀ダイブ』から生還したイタリア男は、
短く刈り上げた黒髪を照れ臭そうにボリボリと掻きながら、


「じゃ、早速3日振りに言わせて貰うとするか……オレとつき合ってくれ!!」


・・・・・・“NO!”と云う彼への言葉は、いつしか私の辞書からも消え失せてしまっていた。



(このお話は、
『1ヶ月1万円節約生活』に挑戦中!のカイヤさんのコメントを元に書かせて頂きました)


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