「お〜い!クラピカ!コーヒー入ったぜ!」
呑気な声と共に大きな掌が、私の背中をゆさゆさと揺さ振る。
「う……ん……?」
コーヒーのほろ苦い芳香が、次第に覚醒して行く私の鼻腔を心地良く刺激する……
「ほら、起きろよ!名探偵!こんな処で居眠りしてたら新年早々風邪引いちまうだろうが!」
頭上で響く、助手のレオリオの声で私は瞳を覚ました。
「幾ら正月で仕事の依頼が少ねぇからって、 推理小説読みながら寝ちまうなんて、職務怠慢じゃ無ェの?」
レオリオはテーブルに私のコーヒー・カップを置きながらニヤニヤと意地悪い微笑を浮かべる。
「し、失敬な! 私は新しい年を迎えて、これから起こるであろう事件に対しての心構えをだな……」
図星を突かれた私は言葉に詰まりながら、しどろもどろ答える。 (どうやら読み掛けの推理小説に突っ伏して眠ってしまっていたらしい……不覚)
「正月だし……縁起良い夢でも見てたんじゃねェの? “名探偵クラピカ、難事件を見事に解決!!”とか……よ」
くく……っと、私の唯一の助手は愉快そうに微笑う。
「あ、ああ……」
先刻の夢を想起して……胸の鼓動が一瞬、ドキ…ンと高鳴るのを感じた。
「まぁ、そんな処だ……」
私はレオリオが淹れてくれたコーヒーにクリーミー・パウダーを1匙入れて掻き混ぜると、 カップに唇を付けて一口含んだ。
ミルクのまろやかさと混ざり合った適度な苦味が心地良く舌の上に拡がってゆく……
「そっか……ま、夢には、見るヤツの願望が出るって云うからな……」
その途端、私は思わず飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになるのを懸命に堪えた。
「バ……バ、バ、バカを言うな!!」
“ガチャン!!”と手にしていたカップをソーサーに思い切り叩き付ける。
「な、何が願望だ!!私は断じて望んでなんかいないぞ!!あ、あ、あんな………」
「………クラピカ、お前やっぱ熱有んじゃねぇの?」 レオリオの呆れ返った様な声で私はハッと我に返る。
新年早々、取り乱し過ぎた様だ。 冷静沈着な私らしくも無い……(反省)
「今日はもう事務所閉めて寝た方が良いんじゃ無ェの? どうせ依頼はペット捜しばっかだろうし……」
「なぁ、レオリオ……」 私は飲み干したコーヒー・カップの底を眺めながら、溜息を吐く。 「あん?」 答えながら、レオリオは胸ポケットから取り出した煙草の箱から1本咥えて、 ライターで火を点けた。
「今年もまた……ウチの探偵事務所への依頼は迷子のペット探しばかりなのだろうか?」
弱音を吐いているつもりは無いのだが、 『クラピカ探偵事務所』昨年の状況を想起すると、 どうしても気弱な口調になってしまうのが否めない。
「ま、しょうがねぇじゃん……」
“フゥ……”とレオリオは煙草の紫煙を吐き出す。
「ウチはまだ開業したばっかで無名だし、 浮気調査じゃ、3丁目の『パクノダ探偵事務所』の方が有名だしな……」
レオリオはありのままの事実を、簡潔に答えた。
「ま、最初はペット捜しばっかでも、頑張ってもっともっと有名になりゃ、 今新聞を騒がせてる怪盗ナントカ・カントカの調査依頼とかも来るかもしんねェし……」
「怪盗レオリオ・レオーネだ!!」
私はその名前に反射的に身を乗り出す。
「そう!ヤツこそが私の宿敵なのだ!!」
私は先刻まで読んでいた推理小説の表紙をパン!と掌で軽く叩く。
日頃私が愛読しているこの小説もヤツがモデルなって書かれているのだ。
「しゅ、宿敵って……クラピカ……?」
レオリオはゴクリ……と唾を呑み込むと、不安そうな顔付きになって私に尋ねた。
「……もしかして、そいつに、会った事……有んの?」
「いや、まだ1度も会った事は無い!」
キッパリと私が断言すると、
レオリオは安堵した様な溜息を紫煙と共に“フゥ……”と吐き出した(何故だ?)
「だがヤツが私の宿敵で有る事に代わりは無いのだ!!」
気を取り直して、私は硬い決意にグッと拳を握り締める。
「ヤツを捕らえられる程の名探偵になるのが、私の今年の目標なのだ!! その為にも、 まず昨年末から消息不明の多摩田さん家のタマちゃんを捜し出さねば……」
勤労意欲に駆られた私はすっくと立ち上がると、早速資料のファイルを拡げて読み始めた。
「新年早々、そんなムキになんなくたって良いじゃねぇか……」
レオリオは咥え煙草のまま、何かブツブツ言いながら、 一杯目を飲み干した私のコーヒー・カップをキッチンに運んで行く。
「……もう、とっくに捕まっちまってるんだからよ………」
キッチンの方でボソボソ・……と小声で何事か呟いたレオリオの言葉の意味が、 私には理解出来なかった。
その時は、まだ……
(使い古されたネタですみません(涙) 元ネタは『かまいたちの夜』です)
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