「そこまでだ!怪盗レオリオ・レオーネ!」
大きく開け放たれた非常口に立っているヤツの背中に向かって鋭い口調で言い放つ。
瞳の前に立っている黒いスーツを身に纏った背の高い男は、 ゆっくりと私の方へ向き直ると、形の良い唇を歪めてニヤリと微笑った。
「一体、いつ俺の正体に気付いたんだ?名探偵さん……」
「無論、最初からだ」
私がそう言うと、ヤツは感心した様にホゥ…と溜息を吐いた。
「俺がアンタの助手に化けて、一緒に警備に就いた時にはもうお見通しだったって訳かい?」
クク……ッと可笑しそうに微笑うヤツに “ああ”と肯くと、
「長年の宿敵で有るお前の正体を見損なったりなどするものか!さぁ!観念しろ!!」
攻防一体の武器である右手の鎖で身構える私の方へ向かって、 “カツン……”と靴音を響かせながら、ヤツは歩を進めて来る。
「なぁ、名探偵さんよォ……?」
その表情に動揺した様子は全く見受けられない。 いや、むしろ、動揺しているのは……
「ハナっから俺の正体が判ってたんなら、 何であんたのボスのネオン警部やダルツォルネ警部捕達に知らせなかったんだ?」
何故? そう云えば、何故なのだろう? 私は、己自身の行動に疑問を抱く……
そうだ、 何故私は、 自分が見抜いたヤツの正体を誰にも知らせずに単独でヤツの後を追ったのだろうか? ヤツを取り逃がす危険を承知の上で……
「それは……それは……私自身の手でお前を捕らえたかったからだ!!」
ヤツはヒューッ♪と口笛を吹いて、
「嬉しい事を言ってくれるじゃねぇか」
“カツ……ン”と、私のすぐ瞳の前で靴音が止まる。
大胆不敵にも、手を伸ばせばすぐにでも確保出来る距離にヤツは立っている。
ゴクッと息を呑んで……ヤツの黒い瞳をキッと睨み返す……と、 フッ……と黒い瞳を細めながら、
「アンタにならいつでも捕まってやるぜ、カワイイ名探偵さん♪」
まるで小さい子供でもあやす様なその口調に“ムッ!”と来てしまう。
「ならば、その言葉通り、さっさと捕らわれて貰おうか!レオリオ・レオーネ!!」
“ジャララッ!!”と私が放った右手の鎖をヤツはいとも容易く左手で受け止めた。 「何?……わ、私の鎖が!!」 一撃必殺で有る筈の私の鎖を左手で絡め取ったまま、ヤツは不敵に唇の端を上げる。
「ま、とにかく今回は俺の負けだ。 アンタの眼力に敬意を表して、秘宝『クルタの星』を頂戴するのは諦めるとしよう」
そう言うと、ヤツは上着の胸ポケットから、人間の眼球位の大きさで有る 見事なスター・ルビーを取り出すと、私に向かってス…ッと差し出した。
美しい星を冠して光り輝く『クルタの星』に伸ばした左手首をグィッと掴まれる。
しまった!と思う間も無くヤツの腕に抱き寄せられ、グィッと顎を掴まれ上向かされる。
「や……っ!離せッ!!」
やたら嬉しそうに微笑うヤツの顔が次第に近付いて……
「………ぅぅ…ん……ッ!」
唇を塞がれた息苦しさに耐え切れずに、私が呻くと、ようやくヤツは唇を離した。
「へへ……やっぱキレイだな、最高のルビーだ」
うっとりと呟くヤツの言葉に、 慌てて私は緋赤色に変化した自分の瞳を右掌で覆い隠す。
「別に隠さなくたっていーじゃねぇか、もうバレバレなんだしよ……」
瞳の上を覆った私の掌をグィッと取り除け、強引に瞼の上に口付ける……
「止せ!バカ!!」 私は渾身の力でヤツの身体を振り払った。 弾みでヤツの左手に絡まった鎖も同時に外れ“チャリ……ン”と音を立てて床に落ちる。
「その二つのルビーも、カワイイ名探偵さんも、……いつか必ず俺だけのモンにしてやるぜ♪」
そう言って高らかに微笑うとヤツは『クルタの星』を私に向かって“ポイ”と投げて寄越した。
『クルタの星』を受け取ろうとした一瞬の隙に、 ヤツはクルッと踵を返して非常階段へ向かって走った。
「待て!レオリオ・レオーネ!」
私が急いで非常口から飛び出した時には、 既に大きな黒い鳥の様なハンググライダーを背負ったヤツが、 まさにその両翼を拡げて飛び立たんとする処だった。
「またな〜名探偵さ〜ん♪」
「待て!レオリオ・レオーネ!!」
私は非常階段の手摺を掴むと、 満月が光り輝く夜空の彼方へ飛び去って行くヤツに向かって身を乗り出し、 声を限りに叫んだ。
「泥棒はまだ出来ないが、きっと覚え………じゃ無かった! 次こそは必ずお前を捕らえてみせるぞ!!私は……私は……お前を……!!」
|