Monologue

2002年08月31日(土) 恋卵(やっぱり下品なので苦手な方はご遠慮下さい)

「何なのだ?あれは……」
クラピカはデパートの売場の片隅に設置された特設コーナーに瞳を留める。

傍らで野菜を物色していたレオリオは、クラピカの言葉を聴き止め、
彼の視線の先を追い掛けた。

『これ1本で、ステーキ10枚分のスタミナ!!』と云う宣伝文句の入った垂れ幕の下に
白銀のユニフォームを着た若い女性が立ち、
道行く人々に笑顔を振り撒きながら手に持った茶色い小ビンを薦めている。

「どうやら栄養ドリンクの宣伝みてぇだな?
すんげェ効きそうだな、1本でステーキ10枚分だってよ♪」
やたら感心した様にレオリオは呟く。

「試しに買ってく?」
レオリオがそう尋ねると、
「いや、遠慮しておく」
そう言いながら、クラピカは首を横に振った。

「あの宣伝文句が……ちょっとな」

クラピカは心無しか、げんなりした様な口調で呟きながら苦笑する。

「ああ『ステーキ10枚分』……てヤツ?」

「ゴンやキルアや、お前ならともかく、
私はステーキを10枚も喰べる事を想像するだけで胸焼けがしてしまう」

「……悪かったな」
レオリオは途端に機嫌を損ねたらしくブスッと顔を顰めた。

「ま、良く有るけどな、
効果を判り易く宣伝する為に、
ステーキ10枚分とか鰻10匹分とか、レモン10個分とかミツ○ン酢10本分とか……
でもよ、実際にステーキ10枚も喰ったらゴンやキルアはともかく俺だって胸焼けしちまうよ」

ハハハ……とレオリオは微笑いながら、更に言う。

「だから皆、ああ云うモンで手軽に摂取し様とすんだよな。
お前ェだって、仕事で徹夜続いてる時、良く栄養ドリンク飲んでるじゃねぇか?」
レオリオに指摘されて、クラピカは”ああ”と肯く。

「でも本当は、薬品よりもちゃんと食品から摂取した方が良いんだけどな」

……と、レオリオは卵が並べられた棚から1パックを取り上げた。

それは普段二人が購入する白い卵よりもずっとずっと高額で栄養価もかなり高い
茶色い殻の卵の10個入りパックだった。
暫く眺めた後、レオリオはそのパックを何の躊躇いも無く買物カゴに入れた。

クラピカはレオリオの行為を不思議に思い、首を傾げながら、

「珍しいな、そんな高い卵は”勿体無ェ”と言っていつも買わないではないか」

それ処か、同じ様な商品ならば1円でも安い店舗までわざわざ足を運び、
可能で有ればギリギリまで値切り倒してGETする筈の『金の亡者』……
いえ『主夫の見本』で有る筈のレオリオが……

「今夜は特別だからな♪しっかりスタミナ付けとかねェと……」
レオリオは意味有り気に唇の端をニヤリと歪める。

「ステーキ10枚も喰ったら動けなくなっちまうけど、生卵10個位は楽勝で飲めるからな♪」
「生だと?生のままで卵を飲むと言うのか?しかも10個も…」

信じ難いレオリオの言葉に驚愕し、クラピカは瞳を大きく見開く。

「ああ、生で飲むには、やっぱ良い卵じゃ無ェと胸焼けしちまうからな……
お前も飲む?」

「い、いや……遠慮しておく」
クラピカは慌てて首を横に振る。

「ま、最終的にはお前にもちゃんと『スタミナ』還元してやるけどな♪」

まるで悪戯っ子の様にやたら嬉しそうなレオリオの言葉の意味が
クラピカには全く理解出来ない。


ただ、先刻から冷たい汗が背骨をツゥ……と伝い落ちて行くばかりで……



それはクラピカの仕事明けの日に、
それに合わせて休暇を取ったレオリオと共に、

1週間振りに二人で摂る夕食の材料の買出しに出掛けた先のデパートでの出来事であった。


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