Monologue

2002年08月12日(月) 師匠の『俺の誕生日』日記3(代筆ななか)

「……何してんだ?クラピカ」

包丁を手に卓袱台の前に戻って来ると、
クラピカのヤツはケーキの上に蝋燭を1本1本1本1本………(中略)立てている。

「21、22、23、24、と……」

可愛らしくデコレーションされたケーキの上部は、
数十本の蝋燭に依ってすっかり埋め尽くされつつあり、
まるで『ヤマアラシ』の如き様相を呈している。

「見れば判るだろう?ケーキに蝋燭を差しているのだ……確か42本だったな、
25、26、27、28……」

「お、おい!俺の歳の数だけ律儀に蝋燭立てるつもりなのかよ?
そんなモン別に適当で良いじゃねぇか……」

するとヤツは顔を上げ、鋭い視線で俺をキッと睨み付ると、

「バカ者!こう云う大切な決まり事をきちんと守らなくてどうするのだ!!」

そう言い放つと、ヤツは再び黙々と蝋燭を立て始める。

「29、30、31、32………」

まるで賽の河原で石搭を積み続ける子供みてぇに、
鬼気迫るオーラを全身から立ち昇らせながら……



やがて、
ケーキのほぼ全面を埋め尽くして林立している42本の蝋燭に火が点された。

ゆらゆらと揺れる焔に、俺はつい居住まいを正して向き合い、きちんと正座してしまう。

「ちゃんと願い事をしながら、一気に吹き消すのだぞ?良いな?」
「へいへい……」

俺は大声で笑い出しそうになるのを必死に堪えながら、
42本の蝋燭に向かって思い切り“ぷぅ”と息を吹き掛けた。

「ハッピーバースディ♪トゥ・ユゥ……」

1本残らず火が消えた蝋燭の上に、ぎこちないボーイ・ソプラノの歌が流れて、
俺は愕然とする。

「………ハッピーバースディ♪ディア………キサマ!何が可笑しいッ!!」

ダメだ、もう限界だ。

俺は床に引っ繰り返り、腹を抱えて大声でゲラゲラ笑った。



そう云えば、3年前の今頃だったな……と俺はふと想い出す。


“今日は俺の誕生日なんだぜ、一杯位付き合えよ”

来る日も来る日も『修行』に勤しみ、
クソ真面目に『鎖』の絵を描き続けるヤツを無駄と知りつつ晩酌に誘ってみた。

“たまには気晴らしも必要だぜ♪”

……とか何とか言いながら。


だが、コイツは瞳を伏せると、小声で低く呟いた。


“この世に生まれて来る事はそんなに喜ばしい事なのか?”


……元々感じてはいたが、

その台詞を聴いた時、
つくづくイヤなガキだ……と、思った。


“この世に生まれて来る事はそんなに喜ばしい事なのか?

 死んで行く事はそんなに怖い事なのか?
 
 ………たかが暗闇に帰るだけの事だろう?“


……んな事言って、スカして格好付けてやがったコイツに、
俺はもう2度と逢う事は無いだろうと思っていた。

だが……



42本の蝋燭を一本残らず引き抜き、
無残にもボツボツとあばただらけになっちまったケーキを味わいながら、
俺はくっくっくっ……と微笑い続けた。

「何が可笑しい?」
「ん?いや、別に……」
「一人で思い出し微笑いなんかして、全く気色悪いヤツだな」

呆れ返った様な……
礼儀知らずで高飛車な物言いは相変わらずだが、
そう云うヤツの瞳は、以前とはうって変わった様に穏やかで優しい色を秘めている。

ヤツが纏っているオーラの色も、また同じ様に……

ああ、そうか……
俺は納得する。

別れていた3年間の間に、コイツの“色”はすっかり変化しちまったんだな……と。


そして、それを為したのはおそらく……


“私の『同居人』が……”


何処か照れた様なヤツの口調を思い出しながら、俺は、またニヤリとほくそ笑む。



「じゃ、私はこれで失礼する」

ヤツはスッと立ち上がった。

「お、おい、もう帰っちまうのか?
せっかく来たんだからよ、もう少しゆっくりしてけば良いじゃねぇか」

俺が引き止める声もろくに聴かず、ヤツは手際良く身支度を整えると、

「そうは行かない……『仕事』を残して来ているのだ」

『仕事』……と云う口調にも、何処か誇らし気な響きが感じて取れる。


その響きが裏付けている。

ヤツが、どうやら今は自分が本当にしたい『仕事』に就いているらしい事実を……


「『仕事』ねぇ……じゃ、仕方ねぇな」

俺は不精ヒゲをポリポリと掻き乍ら苦笑すると“よっ”と腰を上げて立ち上がった。


「気を付けて帰れよ」
「ああ」
扉の前で出立するクラピカを見送る。


すると、
「ああ、忘れる処だった」

そう云いながら、ヤツは懐から青いリボンの付いた箱を取り出し、俺に向かって差し出した。

あまりにも信じ難い光景に俺が茫然としていると、

「バースデイ・プレゼントだ。たまにはその汚らしい不精ヒゲを剃れ!!」

人差し指を鼻先に突き付けられ、ビシッ!と一喝されちまった。


これ以上微笑ったら本気でヤツに殺されちまいそうなので、俺は必死に笑いを噛み殺す。



「ああ、そうだ……クラピカ!」

「何だ?」

出て行き掛けた足を止めて踵を返し、訝しそうに首を傾げるヤツに向かって、

「お前の『同居人』にこう伝えてくれ・……“来年もまた宜しく”ってな♪」

ぴらぴらと右掌を振り乍ら俺は言った。


「なっ!」

“カッ!”と頬を紅潮させて、ヤツは瞳を大きく見開く。

「来年もわざわざこんな山奥まで『誕生日』の祝いに来いと云うのか?キサマ!!」

「当然だ。

“世話になった恩師の誕生日には、

手土産と美味い酒を持ってお祝いの挨拶に伺うのが礼儀”なんだろ?

それに……」


俺はニヤリと唇の端を上げて、


「……俺は、こう見えても、甘い物には目が無ェんだ」





(2日遅れになってしまいましたが(涙)8月8日の師匠様のお誕生日話を書いてみました。
師匠様、お誕生日おめでとうございますvv

そして、コッソリお慕いしている『師クラ』作家の皆様へ……とヒソカに考えたのですが、
やはりレオクラ前提になってしまいました。
もしご気分を害してしまった方がいらしたら本当にごめんなさい(号泣)

やたら甘いし(;;)


「生まれて来る事はそれ程喜ばしい事なのか……」の台詞は、
金曜ドラマ『愛なんていらねぇよ 夏』から引用させて頂きました)


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