Monologue

2002年05月31日(金) 純情物語

「あ〜〜〜っ!」

突然、背後から大きな声を掛けられて、
レオリオは思わず飲んでいた牛乳を吹き出しそうになった。

「レオリオ!お前は一体何をやっているのだ!!」

怒りを孕んだ同居人……クラピカの口調に、レオリオは慌てて振り返る。

「え?何を……って?」

大きな瞳をキッと吊り上げてレオリオを睨み付けているクラピカの表情に、

(やべぇぞ、コイツ、何怒ってんだ?)


レオリオは堪らなく不安な気持ちを煽られる。

(洗濯当番、今週俺なのにまだ洗わずに溜めちまってる事か?

昨夜、風呂最後に入ったのに、風呂洗わずに寝ちまった事か?

古新聞と古雑誌を一緒に梱包しちまった事か?

………それともアレとかアレとか……??!!!)


ありとあらゆる心当たりをぐるぐるぐるぐる……と脳内に巡らせていると、

ピン!と立てた人差し指をレオリオの鼻先に突き付けながら、キッパリと言い放った。


「牛乳パックに直接口を付けて飲むなんて、どういう了見だ!答えろ!」

「…………へ?」

レオリオは自分の右掌の中の飲み掛けの牛乳パックに視線を移す。

「それは私も飲むのだぞ!………お前一人の牛乳パックでは無いのだ!!」


「あ、わりぃわりぃ………ついクセでよ」

レオリオは左手で短く刈り込まれた黒髪をボリボリとすまなそうに掻く。

「少しは礼儀と云うモノをわきまえたらどうだ!!全くお前は……」

「ったく、いちいちうるせぇなぁ……
女だって、一緒に暮らしてる時は別に、ンな事構わなかったのによ……」

ハッ……と息を呑んで、クラピカが黙り込んだのに気付かず、

レオリオは冷蔵庫に牛乳パックを戻して開け放たれていた扉を閉めると、

そのままアパートの部屋のドアを出て行った。



“バタン!”と音を立てて閉められた部屋のドアの方を振り向きもせずに、
クラピカは冷蔵庫の扉を開け、屹立している四角い牛乳パックを取り出す。


“チャプン…ッ”と微かな音を立てた両掌の中の牛乳パックを……

しばし、じっと見つめる。


先刻レオリオが飲んだ時、開け広げられたままの尖った飲み口の部分に、

クラピカは、そ……っと唇を寄せた。

濡れた紙の感触が唇の表面に触れた瞬間、

“バタン!”とアパートのドアが開く音がした。

クラピカは慌てて牛乳を仕舞い、冷蔵庫の扉を閉める。


「ほらよ!ちゃんと買って来たぜ!お前の分の牛乳!!」

そう言い乍らレオリオはキッチンのテーブル上に、

牛乳パックの入った『コンビニエンス・ストア』の袋を“ガサッ”と乱暴に置いた。

「え?」

「………それでいいだろ?」

キョトンと瞳を円くしているクラピカを尻目に、レオリオは冷蔵庫の扉を開けて

先刻の牛乳を取り出す。

「これは俺が全部飲んじまうからよ、悪かったな……」

そう言い乍ら、牛乳パックの飲み口に直接唇を付け、ゴクゴクと飲み始める。


「……随分、早かったのだな?」

「ああ、俺様の長〜い足なら、階下の『コンビニ』まで

あっと云う間に行って帰って来れるぜ!速攻よ!速攻!!」

「そうか……」

「やっぱ便利だよな♪『コンビニ』が近いと……」


“………もう少し遠くても……良かった…”

俯いたまま、ボソリと小声で呟くクラピカに、

「何か言ったか?」

怪訝そうに眉を顰めてレオリオは尋ねたが、クラピカは、

「いや、別に……」と言い乍ら首を横に振った。



「お?もうちょっとだ……これは俺が全部飲んじまうからよ♪」

中身が残り少なくなった牛乳パックを“チャプチャプ”と縦に降り乍ら、

「さっきは悪かったな、これからは気を付けるからよ」

ウインクしながら言うレオリオに、クラピカは、

「ああ……」と無表情のまま、肯く。

「何だよ?まだ怒ってんのかよ?」

「別に……怒っている訳では無い……」

それでも……

まるで拗ねた子供みたいな態度を取ってしまっている、とクラピカは自覚する。


だが、レオリオはさして気にした様子も無く、


「飲み終わったら、ちゃんと中身洗って、キレイに分解してベランダに干しとくからよ!」

クラピカの左肩に“ポン”と右掌を乗せ、いつもの口調でそう言うと,

キッチンを出て自分の部屋に戻って行った。



一人取り残されたクラピカが、

テーブルの上に置かれた

『コンビニエンス・ストア』のビニール袋にそっ……と指を触れると、

“カサリ……”と乾いた音を立てた。





まだキス未満の頃の、ある日のお話………(良く有るネタでスミマセン(;;))


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