白木蓮の咲く庭で...久純ゆきの

 

 

涙に関する5題 - 2009年08月06日(木)



涙に関する5題




01:泣けない泣かない、泣きたくない

誰も幸せになんて、しないから。


02:零れ落ちる雫を止めることが出来ずに

御仕舞。
これで御仕舞。

ばらばらになって、其々の役目に還ってゆく。

護りたい思いは、傷ついた世界を潤す花に。
連綿と続いた過去世は、稚い大樹に寄り添う羽に。
この身に宿した言祝ぎ歌は、守護者に寄り添う御杖代に。

さよなら。
これで御仕舞。

何度も深く呼吸をして、瞳の奥に感じる熱い気配を一緒に飲み込んだ。

……はずなのに。

幸福と平穏を導く守護の元に還してはならない想いたち。

絶望と絶叫は、宝珠に篭めて銀の剣に。
短くも忘れえぬ時は、破れた翅を繕う糸に。
儚く潰えた願いの残滓は、燻る雷の依り代に。

溢れて零れる尽きせぬ想いを底無き深淵へと眠らせて、
二重に三重に止まない雨の鍵を掛けましょう。

帰る場所も、還る場所も、永久に求めぬ道逝きだから。


03:哀しくなんかないのに

その夜。

「……氷色」
いらっしゃい、と手が差し招かれた。
抗う理由もなく、わたしは彼女の傍に向かう。
伸ばされた中で最も近かった人差し指に留まると同時に、
彼女が笑んで私のカタチが変化する。
銀色の羽持つ姿から、彼女の写し身のようなヒトの姿へ。

塞がれた耳。
聞こえない。
遠い、睦事。


04:声もなく、ただ

魔に放つ雷は、あの子の涙。
振るう刀は、たましいの慟哭。
一言の言の葉も散らす事無く。
淡々と、ただ淡々と護りの為の武器と為る。
静かに凄烈に、泣き続けている。


05:嬉しいときも泣けるだなんて、知らなかった

今日もまた樹の下で、幸福の残像。
長い時の末の再会に喜び咽び泣く人間たちの姿があった。
見つめる私の傍らで、少女は緩く首を傾げた。

「何故、彼らは泣いているんでしょうか」
「嬉しいからよ、氷色」
「嬉しい時は笑うものではないのですか?」
「…………」
「飛鳥?」
「…………」
「飛鳥、苦しいです。どうかしましたか?」
「ええ、ごめんなさい。つい」
「どこか痛むのですか? それとも街の何処かに魔性でも現れました?」
「違うのよ。違うの、そんなことじゃない……でも、もう少しだけ、こうしてて?」
「はい、構いませんが……」
「ありがとう」

腕の中の少女を、静かに抱きしめる。
涙零れるほど感極まる喜びを、彼女は知らずに生を終えたのだ。
……抱きしめる腕から、ぬくもりと一緒に染み透って伝われば良いのに。
少女の背には、絶望に青褪め、凍てついた氷の色の銀翅。
その薄い羽衣が、月のようにやさしいぬくもりの金色を灯していた日は、今はもう遠く……。



追憶の苑


...



 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail Home