白木蓮の咲く庭で...久純ゆきの

 

 

『手紙』 - 2009年01月04日(日)


周へ


何て、書き始めればいいのか。

今、この手紙を読んでいる周は、
私が魔街を離れることを――或いは離れたことを、
知っている周でしょうか。

それともこの手紙が先に、周の元に届いたでしょうか。

ごめんなさい。

直接伝えられないことと、もうひとつ、謝らなくちゃいけないことに。

こんな風に永く別れてしまうことになるのなら、
あんなこと言わなければ良かった。
天使たちの家に事実上戻れなくなってからこの数日、何度も思いました。
ごめんなさい。
嫌いなんて、勢いで言っただけです。

最後の言葉がそれだなんて、泣きたくなりそうです。
……また涙が出てきました。
便箋に落ちてインクが滲んでても、見なかったことにしてください。
多分、書き直してる時間も無いから。

普段は優しい周が怒った時に、気付かなくちゃいけなかったね。
離れるかもしれない、予感。

でも……ごめんなさい。
せらのこと、どうしても手を離せません。

何にも知らない小さなせらは、2年前の私に見えました。

周に拾ってもらった時の私。
記憶も無くして、名前も忘れて、何にも解らなくて、
命すら取りこぼしてしまいそうだった傷だらけの私。

霧生奈智。

名前を貰って、とても嬉しかった。
困ってると、いつも庇ってくれて教えてくれて嬉しかった。
前に、隣に、後ろに居ることが。
ただ傍に居られることが嬉しかった。

せらと過ごした時間のひとつひとつが、
振り返ればそのまま、私が周に貰った記憶と同じでした。

私は自分でもそうと気付かないうちに
周にしてもらって嬉しかったことを、
そのまませらにしていたみたいです。

――だから。

だから、どうしても離せません。

私が周から手を離されたら。
そんなこと考えただけで涙が止まらなくなるから。
絶対嫌だから。
嫌だから。

それで、周から離れるしか選択肢がなくなってる今は、
ものすごく本末転倒だって怒られそうなのだけど。

せらも周も、大事です。
質が違って比べられなくて、でも同じくらい、心を占めてる。

ごめんなさい。
本当にごめんなさい。

周の手に届くかどうかも解らない手紙に、
何で全部を託すしかなくなっちゃったんだろう。
意地を張るの、少しだけ止めていれば……。
今更何を悔やんでも遅いけれど。

周に、たくさんのごめんなさいと、その倍の数のありがとうを。

せらはまだちっちゃいので、
とても遠い未来の話になってしまうけれど、
せらが、周への大事とせらへの大事の違いを解ってくれるようになったら。
その時、もし周が許してくれるなら、
周の傍に戻りたい……です。

直接伝えたい。
本当は直接会って言いたいの。

何回書いたら、伝わるかな。
100回? 1000回?
それとも、小さい子達に読み聞かせる絵本みたいに、お星様に願えばいい?

それで届くなら、私は何日だって空を見上げるけれど。


ごめんなさい。


ありがとう。


どうか、許してください。

言葉さえ直接伝えられない私と、
もうひとりの小さな私を。



これから先、どんな風に時間が流れても。
きっとずっと大好きです。


   奈智



...



 

 

 

 

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