白木蓮の咲く庭で...久純ゆきの

 

 

『やさしい雨の物語』 - 2005年11月18日(金)

「……もう、帰りたい……」

その声は、不意に、聞こえるようになった響きだった。
最初は雑踏のなかで聞こえてきて、思わず辺りを見回した。
空耳かと思う音量のつぶやきだったその声は、
日を経るごとに次第に大きくなっていって、
けれど何でかわたしはちっとも恐ろしいとは思わなかった。
ただただ悲しく繰り返し嘆くその声の持ち主に
不思議なぬくもりと哀切を感じているだけだった。

だから、その夜の夢も当然のように受け容れてしまっていたのだ。
気持ちなのかで、もう、とっくの昔に約束していた出来事のように。

「もう、帰りたいの……」

長い金髪を揺らめかせて、その人は泣いていた。
嗚咽もなく、ただ零れる涙はとても綺麗だった。
真白い革の鎧とお揃いのブーツに身を包んですんなりと立ちながら、
その人はわたしと向かい合っていた。

涙が綺麗すぎて、背景のこととかは、実はよく覚えていない。

「もう、忘れてしまいたいの……」
「うん……いいんじゃないの?」

あまりに悲しそうだったから、ついそう話しかけてしまった。
その言葉は、声が聞え始めてからずっと暖めていたセリフでもあって、
発した私の胸の中にすとんと落ち着いた。

帰りたい。じゃあ帰ったらいい。

皮肉とか嫌味ではなく、純粋にそう思った。
あなたがそんな風に悲しむなら、って。

「……帰っていいの……?」
「うん、いいよ」

誰が許さなくても、わたしが許すから。
文句言うような人が居たら、わたしが代わりに戦ってあげる。

「……帰りたい……」
「うん」

そのとき、さあっと風が吹いた。
彼女の金髪を綺麗に掻き揚げて吹き抜けていった。
舞い上がった髪にそれまで覆い隠されていた耳は、
人間のものより少し尖っていて、
それは前に映画で見たことのあるエルフのよう姿で……。

そこへ突然、わたしと一緒くらいの年の、女の子の影が重なった。

(鳩……鳩子?)

不意に湧き上がってきたのは、そんな名前だった。

「鳩……?」 

呼んでみると、彼女の背中からぱさりと解けるように、
真っ白い大きな翼が現れて。
見惚れているうちに、彼女に合わせていた視線が次第に浮き上がっていった。

「これ……渡してくれる……?」

彼女がきゅっと胸の前で組んでいた手を解くと、
こぶしの大きさくらいの光る球体が現れた。
そっと押し出されるままに球体はふわりふわりと不安定に揺らぎながら
わたしの元へと降りてきて、胸の前で止まった。

「……なに、これ?」
「残してきた人たちへの、メッセージ」
「え……?」 

戸惑う間もなく、球体はすっとわたしの胸の中へ入り込んで来て。

その瞬間、まばゆいばかりに輝きを放ったので、
わたしは思わず硬く目を瞑ってしまった。

途端に溢れてくる、記憶、記憶、記憶、記憶……。

笑っている鳩、怒っている鳩、困っている鳩。
鳩をめぐる人々、その笑顔。
ちいさな出来事、大きな出来事。

しばらくは頭の奥がちかちかするような感覚があって、
目を開けられたのは随分時間が経ってからだった。
けれどもうそこに鳩の姿はなくて、
真っ白な世界の中に居たのは、わたし一人だった。

「ごめんね……でも、どうしても、言葉を届けて欲しいの……」

空から風と一緒に降りてきた、鳩の言葉。
そうして、気配はふうっと遠くなっていった。

わたしは鳩の記憶を抱きしめて……そうして、彼女の願いを理解した。


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「お〜い、雨サン、だいじょぶ? 生きてる?」

ふと気づくと、目の前5センチの距離で、大きな手のひらが振られていた。

「あ、うん、生きてる生きてる。平気平気」

嫌味なくらいおっきな手のひらに自分のこぶしを軽く当てて退かすと、
鮮やかな緑の髪がぱっと視界に飛び込んできた。
からかうような人の悪い笑顔を浮かべているのはリュークさん。
鳩の記憶の時代、騎士から忍者に転職した変り種。
性格は至って軽そうに見えるくせに、実は結構人脈が広い。

「おい、そこの二人。じゃれてると置いてくぞ」

戦闘の後、でっかい斧の感触を確かめるように振りながら、
そんなツッコミを入れて来るのは黄天さん。
陽を受けてまぶしく光る雪にも負けない、目の覚めるような金髪の持ち主。
鳩の記憶によれば、頼りになる戦斧闘士のおにいさん。
ぐいぐいと、自分の力で行く手と目標を引き寄せていくひと。
自分の能力を磨くことにかけては、この人以上の努力家を知らない。

「はぁい、ごめんなさ〜い」
「はいよ〜っ。雨サンがぼやっとしてるから怒られちゃったよ〜」
「違うもん、ぼやっとなんてしてないも〜んっ」

雪に足を取られそうになりながら二人で走っていくと、
黄天さんよりもう少し先、離れた木の下で
こちらを見ながら不思議な微笑を浮かべているひとがひとり。

癖のない蒼髪をひとつにまとめ、肩に流した涼やかな姿。
走ってくるわたしたちを認めてゆっくり背を向ける。
このパーティーの先頭を行く、ゼロポイントさん、通称ゼロさん。
鳩の記憶を探れば、風のようなひと。
そして大地のようなひと。
掴みきれないけれど、どこか安心できるオーラを持っている。
 
「で、雨香。この雪山の頂上にいるヤバイのの名前は覚えてるか?」
「……えーっと」

ゼロさんの背中についていきながら、
隣の黄天さんの質問の答えを必死に思い出す。
後ろでリュークさんがニヤニヤ笑ってる気配。
思い出せないと思ってるでしょ……むかっ。

「えーと、あ、あ、……あ……いす、あるらうねっ! あいすあるらうね!」
「はい、正解」

よろしい、と黄天さんは満足げに頷く。
ちぇっとリュークさんが舌打ちする気配。
でも、実はそういうのも嫌いじゃない。
だって、リュークさんのからかいは、半分以上が親しみで出来てるからね。

「じゃあ、別名は?」

前を行く白いサーコート背中が、くすりと笑って問うてきた。

「べ、べつめい!?」
「そう、別名。通称の方がいいかな?」

ゆっくり考えていいよと言いながら、深雪の山道を登っていく。
結構重労働だと思うんだけど、その動きはまるで身軽だ。

しばらく、わたしの唸り声と、4人が雪を掻き分ける音だけ……?
……いや。遠くから犬の吼え声のような。

「来るぞ」

短く告げるのは黄天さん。
ゼロさんはもう、無言で迎え撃つ姿勢に入っている。
いつの間にかリュークさんもわたしを抜いて前で槍を構えて。
わたしも遅れないように、この頃ようやく手に馴染んできた斧を振りかぶる。

ものすごい勢いで、白い犬が6匹ほど斜面を駆け下りてきた。

先陣を切ったのは、黄天さん。
ぎらつく銀色の閃光が走ったかと思うと、
白犬――ガルムが一頭、額を砕かれて悲鳴の間も与えられず散る。

その黄天さんの頭上を飛び越えて掛ってきた一頭の眉間を、
舞いの振りのような何気ない一歩で迎えたゼロさんの槍が鮮やかに貫く。

迎え撃ったふたりの脇をすり抜けて
群れに突っ込んでいったリュークさんの姿がふっと掻き消える。
数瞬後、一頭の背中から吹き上がった鮮血が深雪に花を散らす。

わたしも負けじと、飛び掛ってきた小さめのガルムに渾身をこめて、

「あーっ、分かった、シャリシャリッ!」

斧を振り切った。

残った二頭は全員の従えたペットモンスたちが片を付けてしまい、
わたしは思い出せた満足の笑みを浮かべてゼロさんを振り返る。
ゼロさんは笑いをこらえているような表情で、正解、というように頷いた。

「戦闘中に思い出すかなぁ、ふつー」
「まあ、それが雨香なんだろ」

相変わらずからかい口調な突っ込みのリュークさんと、
フォローになってるんだかなってないんだか分からない黄天さん。

今日は、3人のおにいさんがわたしの修行に付き合ってくれて、
みんなで雪山ハイキング。
ここの敵は、おにいさんズにはほとんどメリットないと思うんだけど。



ねえ、鳩。
わたし、ここで生きてるよ。
あなたの記憶という遺産を受け取って。

あなたは真っ白い世界の向こうで、少しは楽になれた?

どうか少しでもあなたが幸せで居ますように。
それがわたしの願い。


あの日見た風の神話から、わたしの物語は始まったのだから……。



****************


このお話、この日記で露出させた事ってありましたっけ?

昔やってたMMO、クロスゲートのマイキャラの物語です。
初代は鳩ちゃん。
……を、諸事情でデリって、雨香というキャラに作り直しました。
「あめか」ではなくて「うきょう」。

その雨香モードの時の思い出を元にして書いた一品。
大分前の作品ですね。
Dドライブを漁っていて見つけて、
思わず懐かしくって載せてしまいます。

読み返してみると「〜て。」で止めている表現がすごく多くて、
あまりにも気になって何箇所か直しました。
これはあからさまになりチャの影響です、多分。

ともあれ。
リュークさん、黄天さん、ゼロさん。
みんな懐かしいな。
元気してるかな。

天さんはちょっとビミョウだけど、
リュークさんとゼロさんは比較的ご本人に近い感じで書けたと思うのですよ。
というか、リュークさんはあっけらかんと軽めのからかい役、
ゼロさんが寡黙で格好いいマイペースを地で行く感じなので、
天さんがあおりを食らった感があります(書いた私的には)。
解説役というかまとめ役っぽい立場の人物、一人は必要なんだもん。

今から考えると、リュークさんと天さんに掛け合いをさせて、
雨とゼロさんが後ろからついてくってのも面白かったかも。
ちょうど、槍と斧でコンビがひとつずつ。

もう戻るつもりのない世界だけど、
こうして改めて考えたりすると、大切な世界のひとつでした。


さてさて。
色々書きたいことはあったけど、
今日はこのネタとMステネタを書かねば!

何ですか、あのWaTって何ですかっ!!!
(いきなりテンション沸点越え)
あの思わずカップリングしたくなっちまうコンビはっ!!!!!
あー、もうびびりました。
後ろに母親がいるというのに、真面目ににやけてましたよ、私。

なんていうか、彼らの言動のひとつひとつが
いちいち腐女子回路のスイッチを押していくのです。
ちなみに、徹平くんの方が受けね♪(音符付きで言うな)

……あー……あれはホントにやばい……。
ツボすぎてツボすぎて回路直撃でした。
ショートして壊れるかと思ったですよ(いっそ壊れた方が……)。

先生、世界ってすごいです。
後から後からカップリングされて、
足抜けできません……くは(ばったり)


...



 

 

 

 

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