端書 - 2005年10月25日(火) 今日も窓から空を見上げる。 一点の曇りもなく、空は青く果てなくて。 鳥でも居ればすぐにそれと判りそうなものだけれど、 生憎ながらここは、一般的な鳥の生息圏より遥かに高い山の懐。 通りすがる群れどころか、迷子の一羽も居るはずがない。 ここを目的地として目掛けて来るのでもなければ。 だから今日も窓から空を見上げる。 一点の曇りもなく空が青い事を確かめて、癖になったため息を吐く。 周囲に誰も居ない事は確認済みで、 けれど万が一にも気配が近づいてくればすぐに笑みを浮かべられる。 微笑を身につけたのは自分を誤魔化して生きていく為で、 この笑みを手放さない限り 芯から温まる日が来ないことなど疾うに悟っていた。 綾花苑の白い仙人さま。 麓の邑に住む人たちからそんな風に呼ばれるようになって久しいけれど、 一番最初にその名前を捧げられたのは自分ではない。 白い花なんて号は、こんな処世の為の笑みには似合わない。 花が咲いては散るように、 一日、また一日と積み重なるため息。 この思いはほとんど執着に近い。 師が弟子を思うものとは、最初から性質が異なっている。 分かっている。 解っている。 ……だから永遠に判らなくていい。 生まれ変わりでも、それが明白でも、こんな勝手な願いを知られたくない。 こんな勝手な執着を知られたくない。 知らないままでいい。 昔のことなど。 生まれる前のことなど。 …………。 今日も窓を見上げる。 そしてその向こうの青い空を。 ただ青く、無心なまでに青く。 ひたむきで無邪気なその青さに彼の瞳を思い出して 泣き出しそうになる気持ちをただ黙って宥めていた。 ...
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