マニアックな憂鬱〜雌伏篇...ふじぽん

 

 

映画「CASSHERN〜キャシャーン」感想(激ネタバレ) - 2004年05月01日(土)

以下は、映画「CASSHERN」の感想です。
例のごとく激しくネタバレしておりますので、未見かつこれから観に行く予定の方は、読まないでくださいね。


本当に、ネタバレですよ!

〜〜〜〜〜〜〜

というわけで映画の感想。

『たったひとつの命を捨てて 生まれ変わった不死身の体
鉄の悪魔を叩いて砕く キャシャーンがやらねば誰がやる』

…って、決め台詞はやらないんですかっ!
予告編ではあったのに!
というような点では不満がないと言えば嘘になるんですけどね。
僕はけっこう面白かったです、この映画。
ツッコミどころ満載、という点も含めて。

ストーリーは、もうどうしようもないくらい破綻しています。
あんな学会ありえないし、新造細胞というのは、骨髄幹細胞みたいなものを意識しているのかもしれませんが、問題はそれをどうやって目的の組織に分化させるかってことで、それはそれで誰かの組織であるかぎり拒絶反応だって出るだろうし。それが培養液の中で何かの拍子に自分の意思を持ったかのようにくっついて再生するなんて信じられん。
(まあ、もとは人間だった、というオチがつくわけですが、元の体を認識してくっつくとしたらすごいなそれ)

それに、たった4人でどんなに頑張っても、あんな高度なプラントを管理・運営できるとも思えないし。いろいろ研究者をさらってきたにしても、4人だぞ4人。ただし、唐沢さんの
【我々はまぎれもなくここに生きている
しかし、人間はそれを認めようとはしなかった。そればかりか、目にもあまり残虐な手段を尽くして、われら同胞の命を排除した。あたかも裁きを下す者のごとく、あたかも彼らがその権利を有するかのごとくだ!

命に優劣があろうか。生きるという切実なる思いに優劣などあろうか。ただひとつの生を謳歌する命の重みに優劣などあろ
うか!あるはずがない!しかし、人類は目に見えぬ天秤の上に我々を載せた。それが仮に彼らの権利であるというのなら
その逆もしかり!我々がその権利を有することも可能なのだ!】

という演説は、なかなか格好よかったです。
聴衆が少ないのは残念でしたが。
世間的には、これが「イラクのテロリストへの共感」ととらえる向きもあるみたいだけど、そんなことは、小林よしのりだって言っていたし、多角的に検証しようとする人間なら、誰でも考えそうなことだからねえ。
ちなみに、僕もどちらかというと新造人間に肩入れしてしまいましたし、紀里谷さんも「新造人間に共感してもらいたい」というようなことを言われていたみたい。

これは「反戦映画」なのだろうか?ということを考えていたのですが、どう考えても「反戦」ではないような気がする。アンドロ軍団(って、唐沢さんが率いてたやつですよ。原作ファンは涙、でも作中では一度も名乗りませんが)がやっていることは「人類浄化作戦」だし、人間がやっていることも同様。で、キャシャーンも力づくでなんとかしようとしてしまうわけで。
「戦争によって戦争の無い社会を作り上げようとする矛盾」みたいなものが延々と語られているわけですよ。ラストシーンからは、むしろ「反戦」というよりは、「非戦」(つまり、俺たちは自分の世界で幸せになるから、お互いに干渉しないようにしようよ、という考え)を感じてしまいました。いや、それが悪いとも一概には言えんけど。

最後のシーンは、正直言って「無理矢理謎解きをしてみました」という感じだし、だいたい、「新造人間は本当は人間なんだ」という設定は、あんまり意味が無いような気がします。もうあの状況になったら、悩むようなことじゃないだろ、とか、むしろ「作りものの生命」のほうがテーマに合っているんじゃないか、とか。
それに寺尾聡のマッドサイエンティストっぷりもなんだかわけわかんないし、なんであそこでルナさんを撃ったりしたのかよくわからん。最後に生き返って爆発してしまうのもよくわからないし、キミたちの子供というのもよくわからん。とにかくわからないことだらけです。
「赦し合うことが大事なんだ」とか言いつつ、親子喧嘩してるし。
最初が冗長なわりには最後はドタバタして強引に結論に持っていこうとしてるし。無理矢理ラストで辻褄合わせるよりは、むしろ大爆発で宇多田の曲が流れて終わり、のほうが良かったような。まとめようとしてバラバラ、だものなあ。

しかしまあ、僕はけっこう楽しかったのですよ、この映画。
もちろん、その破綻っぷりを楽しむ、というのもあったのだけれど、この映画って、いわゆる「みんなが褒める名画の条件」というのをことごとく無視しまくっていて、それがすごく新鮮な感じがして。

「ストーリーは辻褄が合ってないとダメだ」
「細かい世界設定がなされていないとダメだ」
「リアルじゃないとダメだ」
「説明的なセリフ回しはダメだ」
「善悪がハッキリしていて、観る側のストレスが解消されなくてはダメだ」(これはハリウッド映画限定なのかもしれませんが)
など、いわゆる「お約束」みたいなものを全く超越しています。
 どうしてそうなったのかよくわからないストーリー展開に、「イノセンス」をチープにしたような東洋的背景。セリフは誰がなんという名前なのかすらよくわからないわりには、テーマみたいなことを延々と登場人物が演説しています。予算の関係なのか、アンドロ軍団とキャシャーン(というか、徹也が自分のことを「キャシャーン」だと言ったのは劇中で1回だけで、もし他人からそんなふうに呼ばれたらHNで呼ばれるオフ会の人くらいの違和感を本人も感じまくると思います)との闘いは、一対一か、キャシャーン対CGだし。おまけにキャシャーンの弱さは特筆もので、ロボット軍団を破壊しまくっていたシーンを除けば、吹っ飛ばされるシーンばっかりが印象に残っています。というか、そもそも何のために出てきたんだキャシャーン。キミの存在は大勢に影響なかったような気がするよ。

とはいえ、なんだかすごく新鮮なんだよこの作品。
僕のへそ曲がりのせいだと思うのですが、最近ずっと映画を観ていて「ハリウッド的なお約束」に飽きていたんだろうなあ、なんて観終わって考えてしまいました。
イメージビデオというか、ゲームの「ファイナルファンタジー」のようなCGの映像美(それだけに、ずっと観ているとかなり疲れるわけですが)、理不尽だけど訳ありげなカット。
そして、個人的には麻生久美子さんの美しさ!たぶん、この人の美しさって、テレビドラマでは表現しにくい性質のものだと思うのですが、どんな目にあっても化粧が落ちなかったり、あんな状況でヒールのまま逃げ惑っていたりするのも、なんとなく許せてしまいます。あの網ブーツもとっても良いです。最後の寺尾さんには殺意すら覚えましたが、とりあえず本人たちは満足みたいだったのでよかったかな、と。

ところで、僕がこの映画に感じた「魅力」というのは、むしろあまりにパターン化してしまった「良い映画を決める人たち」への反発心から出ているもかもしれないなあ、なんて思います。この映画、やたらと評論家の評判は悪いみたいだしねえ。
でも、お客さんは意外とみんな楽しそうでしたよ。

ただ、紀里谷さんの「次の映画」を観たいかと言われたら微妙ですけど。



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