今日は、小さく運がいい一日だった。 まず朝。 起きるのに望ましい時間よりも10分早く、 自然に目が醒める。いつもの頭痛も無い。 久々に朝食を食べる。 いや、毎朝抜いているわけではない。 この時間に食べるのが久々なだけだ。 今日のように出発時刻が6時台であると、 そういう朝は私の場合、たいがい 食欲もなければ時間もないものなのだ。 ところが今朝は、食欲もあった。時間もある。 昨日買ったカルツォーネ(餃子状の包み焼きピザ)を 焼き直したもの半分と、烏龍茶を一杯。 ああなんか朝だなぁ。家族も寝ていて、静かだし。 で、家を出て電車に乗る。 いつものように車内で熟睡していたのだが、 乗り換えるべきN駅に着いたと同時に パカッと目が醒めた。 こういうタイミングの良さ。 しかもたいてい寝起きは頭痛がガンガンしているのに、 今日はそういった小さなストレスが一切無い。 学校に着く。 いつもは眠いのに、眠くない。不思議だ。 ……夕べ寝たのは2時過ぎだったはずなのに。 あっ、いつも授業に来ている友人が来てない。 風邪だろうか。と心配ではあるが、 今までの自分の幸運があまりにも珍しくて ひょっとしてこれは夢の続きでは、と 一人疑っていたので 電話をかけようとも思いつけなかった。 昼間も、ラフなスケッチを描いたりして過ごした。 頭痛が来ない。太陽もあたたかい。 図書館が空いている。 私は珍しく、授業をサボろうかなどと思っている。 だってこれ、夢だろう? ……しかし違った。 現実はすぐやってきた。 太陽が沈むくらいの時刻だった。 突然、降って湧いたような頭痛が襲いかかる。 その瞬間かつてのように、声を出さずにうめいた。 ああそうだった、こういう日はまとめて『来る』んだ。 ずる賢いゲームの相手のように、 それは油断した時にやって来る。 治ったと思うとまた繰り返す。 先刻までの調子の良さは夢というよりフェイントか? 来たら腹をくくって、治すしかない。 しばらく冷え切った指先でこめかみを冷やす。 少しずつ痛みが引いていく。 この手の痛みの性質は、知り尽くしている。 だから何事もなかったように人と会話し、 階段の手すりも使わずに70km離れた自宅まで 帰ることができるのだ。 ……今日の小さな幸運は太陽とともにどこかへ沈んだ。 急激な気温の変化で調子が乱れたからだ、と 自分で自分に説明する。 そうしないと、あの痛みを正当化できない。 温度変化に慣れてからは、普通に。 そして今も、何事もなかったように。 今日も平和な一日であった。 |