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Deckard's Movie Diary index|past|will
クローネンバーグの新作『ヒストリー・オブ・バイオレンス』。およそ、クローネンバーグらしくない?分かり易い作りです。出だしのシークエンスから、静かな演出で“暴力”という行為を淡々とスクリーンに映し出し、弱肉強食の世界を端的に描いていきます。そして、出会い頭の交通事故のように、暴力が支配する世界に否応無く巻き込まれる一般市民・・・その結果、新たな、暴力が支配する世界が生まれ・・・、ここまでは実に明快に暴力が暴力を生み出す過程が的確に表現されています。傑作を予感させるに十分な展開です。ところが、物語は「おいおい、そっちに行くのかよ!」と突っ込みを入れたくなるような安直な方向へ進みます。そっちに行っちゃったら、もう、何でもありでしょ!個人的には正当防衛とは言え、図らずも暴力で英雄になってしまった悲劇を描いて欲しかったと思います。暴力は憎むべき行為ですが、キレイごとは言ってられません。とにかくアッチ方面に行ってしまった展開にガッカリでした。ただ、もう少し深く考えてみると、これはある意味「暴力をふるう人間とふるえない人間との違いは、その因子にある!」というコトなのかもしれません。つまり、ヴィゴ・モーテンセン扮するトムにはその因子があり、当然その息子にもあり、逆に、その息子の母親には無いのでしょう。暴力をふるうことが出来る人間は、多少の躊躇はあったとしても、暴力を肯定的(前向き?)に受け入れるワケです。片や、暴力をふるえない人間にとっては、暴力なんて憎むべきモノでしかありません。しかし、その両者がこの世に存在する限り、お互いを受け入れなければならないのでしょう。この映画のラストがそれを暗示しています。まぁ、いろいろ考えさせられる映画であるのは間違いないでしょう。
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