気ままな日記
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2008年03月19日(水) 悪意の小説

宮部みゆき著『R.P.G(ロールプレーイングゲーム)』を読む。
彼女の作品は、短編で何冊か読んだのだが、長編は初めてである。長編の方がおもしろいというウワサも気になっていた。
書店でぱらぱらとめくった感じ、あまり血生臭い表現もなさそうだし、手頃の厚さだし、なにより、ネットの世界をテーマにしたミステリーというのも、興味をひいた。
 ネット上に作り上げた疑似家族の「お父さん」が殺されたところから物語が始まる。疑似家族の構成は、お父さんのほかに息子、娘、お母さんの3人。彼らを含め、現実の世界でもこの「お父さん」と関係があった人たちが、被疑者として浮かび上がる―。

 ネット上の関係は特殊だ。他人同士の親しい会話を、クリックひとつで覗き見することができる。話し言葉だったら、相手の表情を見ながら加減しながら出されるが、活字は、無防備な心の中に容赦なく侵入する。パソコンのふたを閉めれば、画面は消えるけれど、ひとたび目撃してしまった言葉は容易に追い払うことはできない。ワクチンを打っておかなかったパソコンが、あっけなくウイルスに感染してしまうように。
 ネット上だけの架空の関係でも、例え活字だけのやりとりでも、画面の向こうにいるのは、明らかに生身の人間だ。嫉妬、羨望、憶測、推測。実際の人間関係で味わうもろもろの感情と無縁でいることはできない。
神秘のベールで包んで本性を隠し、思わせぶりな雰囲気を漂わせて、相手を惑わすこともできれば、羨望される対象でいたいがために、わざわざ嫉妬心をかきたてるようなことを書くことも、ネットの世界では可能なのだ。
 先日書いた『ひとりごと』と同じ。ネットに書かれたことを真に受けて、問い返しても、これはただの心のつぶやきなの、気にしないでね、と言われてしまえばそれまで。こちらの考え過ぎとして片付けられてしまうか、向こうの「手口」にはまるだけ。
 作者はこうしたネット上での関係を経験されたことがあるのだろうか。
そのリアルな心情描写と筋書きの巧さに、彼女の長編作品ファンになりそうです。


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