囚はれのシネマ日記
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2004年07月09日(金) 6月19日 プラド美術館




プラド美術館前の広場にも犬のフンの匂ひは沁みついてゐた。
乾いた風がそれをツーリストの鼻先まで運んでくる。
これがマドリッドの歴史の匂ひなのだとわたしは実感した。
道路に汚物をぶちまけてゐた時代から石畳に沁みついた歴史の匂ひ。
しかし街中のオープンカフェでは、その匂ひのなかでスペイン人たちが飲んだり食べたり人生を謳歌してゐる。

けふはマドリッド在住のガイドSさんに導かれてプラド美術館見学をする。
フラメンコギター留学でスペインへ来てそのまま住み着いた女性だ。
みなさんは一番乗りで見学できて幸運だと彼女は言ふ。
たしかに次から次へとツアー客の波が押し寄せてくる。
ベラスケスの「ラス・メニーナス(女官)」「マルガリータ王女」。
ゴヤの「着衣のマハ」「裸のマハ」「カルロス4世家族」。
エル・グレコの「胸に手を置く騎士の肖像」「受胎告知」「十字架降下」。
などを今がチャンスとばかり解説つきで大急ぎで見てまはる。
残りの45分はご自由に、といふことになつたので同じ階にあるイタリアの絵画を見る。
フラ・アンジェリコ、ラファエロ、ティツィアーノがたくさんある。
レンブラント、デューラー、ボッシュ、ルーベンスもあることは知つてゐたけれど、とても大急ぎで見てまはる気にはなれなかつた。
およそ2時間で世界の名画と言はれるものを30枚以上はすでに見たのだ。
1日ぐらゐかけてゆつくり鑑賞することがふさはしいと思へた。
もう一度プラド美術館に来ることがあるかどうかは分からないけれど。

ところでSさんの解説は分かりやすくおもしろかつた。
近親結婚を繰り返したためにスペイン王家には虚弱体質やヨダレが止まらない人や頭のおかしな人たちもかなり生まれたらしい。
淫乱で知られる王妃や不能の王などもゐる。
(べつにスペインに限つたことではないかも)
画家たちはアーティストといふより王室の肖像画家であり内装画家であつた。
つまり職人さんである。
そのなかでゴヤが描いた「カルロス4世家族」といふ肖像画にはスキャンダラスな味はひがある。
王妃の子どもたちの父親は王ではなくそこにはゐない愛人だといふのだ。
またベラスケスの「ラス・メニーナス」の隅には小人が描かれてゐる。
当時の宮廷では小人のやうなフリークが見世物として好まれたといふ。
エル・グレコつまりギリシア人と呼ばれた画家はホモであつたらしい。
のちにトレドで成功するものの、それまでは不遇の人生だつたらしい。
わたしはもちろんエル・グレコの絵がいちばん好きだ。
あのぐにやりと遠近法を無視したやうな妙になまなまとした画法は一度見たら忘れられるものではない。
数枚の絵はがきをミュージアム・ショップで買ふとゴヤ門から外へ出た。




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