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2003年12月31日(水) 「めぐりあう時間たち」(+雑記:今年もお世話になりました)

 ※ ネタバレしてます。


私は(好き嫌いは結構はっきりしているものの)映画を作品として自分の中でランク付けするのがどうも苦手なので、“今年のベスト10!”とかそういうのを避けているんですが、でも本作は、これは間違いなく2003年に観た中のNo.1作品だと断言できる。それくらい心に残る映画でした。公開時に二度観て、ついこの前もスクリーンで再見したのですが、やっぱり素晴らしかった。傑作だと思います。とにかく、非常に美しく構築された物語なのです。


1923年のロンドン郊外では作家のヴァージニア・ウルフが「ダロウェイ夫人」を執筆し、1951年のLAでは主婦ローラが夫の誕生パーティの準備をし、2001年のNYでは編集者クラリッサが友人の受賞パーティのために奔走する。三つの時代・三つの場所でのある一日が流れるように交錯し、やがて一つに繋がってゆく。


三つの時代を描いているとはいえキーパーソンはヴァージニア・ウルフで、「ダロウェイ夫人」執筆に臨んでの彼女の思索があとの二人(二つの時代)の運命を司る。この時代時代への場面転換が実に見事で、 ―― 今便宜上“場面転換”と書きましたけど、実際は切れ目をほとんど感じさせず流れるように繊細に(しかし的確に)時が重なり合ってゆきます。実はこういう描写自体が既に「ダロウェイ夫人」を意識したテクニックの一つで、というのは、この小説は人の“意識の流れ”を区切りなく次々綴っていくという不思議な手法を追求して書かれた作品だからです。他にも、登場人物の名前(“クラリッサ”はもちろん、“リチャード”とか“サリー”とか)や、いずれもパーティを催す一日の出来事を描いていること、同性愛的要素を挿入していることなど、「ダロウェイ夫人」との共通点が各所に見られますが、何より最も賞賛すべきは、この映画の内容が観る者に「ダロウェイ夫人」と同じ印象を与えること。「ダロウェイ夫人」という小説にこめられた死の影、老い、恐れ、不安、日常に潜む手立てのない絶望、これらがほぼ同質に「めぐりあう時間たち」で表現されている。そうして結果的に、映画全体が「ダロウェイ夫人」へのオマージュになっているのです。これは例えば、昨日の「ライ麦畑をさがして」が「ライ麦畑でつかまえて」という小説を単なるアイテムとしてしか生かせていなかったことに比べて何たる違い、その差は歴然です。文学を題材にした映画として、文学作品をモチーフにした映画としてほとんど完璧な完成度ではないでしょうか。無論マイケル・カニンガムの原作「The Hours」の映像化(=文学作品の映画化)という面からも申し分のない出来映えなわけで、その意味で本作は二重の成功を収めていると言えるのです。

そしてこの物語を支える俳優陣の演技もとても良かった。主演三大女優から脇役に至るまで、みんな良かったです。特にエド・ハリスが素晴らしかったなあ。そういえば彼が着ていたガウンとリッチーの寝具が同じ生地なの、気付きました? 最期のシーンではヴァージニアの遺書の言葉と同じ台詞を言わせたりして、本当にどこをとっても隅々まで綿密に配慮され、作り込まれている。「美しく構築されている」と言ったのはこういう意味です。

そんなわけで、この作品には久々に感銘を受けたというか、こう、ガツンとやられた気分でした。過酷な運命を描きながら生の喜びを歌い上げるような映画もいいけれど(例えば今年観た中で言うとレイフの「太陽の雫」がそんな感じでしたが)、逆にこういう、美しい映像と華やかな女優陣で暗鬱たる生の哀しみを描いた作品も、人を感動させるに十分な、最高の芸術だと思います。



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めぐりあう時間たち 【THE HOURS】

2002年 アメリカ / 日本公開:2003年
監督:スティーヴン・ダルドリー
出演:ニコール・キッドマン、ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ
エド・ハリス、ミランダ・リチャードソン、ジョン・C・ライリー
(劇場鑑賞)



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ということで、年末ギリギリまで粘って粘って怒涛の更新(当社比)をしましたが(さすがに書くのに疲れたよ…)、このページをご覧下さっている皆様には今年もたいへんお世話になりました。ありがとうございますー。
実は、最初は行かないつもりだったのですが急遽予定を変更して、今日はこれから「カウントダウン映画でお正月2004年!」に行ってきます。ので、新年の更新はこの三作品「レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード」「ミスティック・リバー」「ゴシカ」の感想からになると思います。来年もよろしくお願い致しまっす。皆様良いお年を〜。




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