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本日読了の本
・夢野久作「ドグラ・マグラ 上下」角川文庫
何をまた今更…と言われそうだが、実は読んだのは初めてである。 今までの読書遍歴を思い起こしてみれば、当然引っ掛かって然るべき筈なのだが、 過去何度か本屋で手に取って見たものの、結局読まずに来たのだった。
ある種の嗜好を持つ人なら、必ず出会い、そしてハマるというイメージのあるこの物語、 確かに極めて鮮烈な、非常に強烈な、インパクトと衝撃を与える内容ではあると思った。 もっと以前に読んでいたら、恐らくは、極めて有りがちな程、傾倒していたに違いないと思える。 過去私にとって、エポックメイキングとなった「デミアン」「デビルマン」 「百億の昼と千億の夜」「妖星伝」などに匹敵する、或はそれらを陵駕する程の 大きな影響力を、私に与えたに違いないと思う。
しかし私は今まで、結局それを手に取る事は無かった。 そして、あれから幾年、今これを読んで、つくづく、本というものにも、 出会うべきタイミングがあるものだと確認させられたのだ。
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最後まで通読した印象は、前半はアシモフの「空想自然科学入門」である。 後半は、中井英夫の「虚無への供物」的メタミステリである。 前半は非常に精密で、科学的(作り物の、であっても)で、興味深く面白い。 後半は、混乱に満ち満ちているけれど、ワクワクハラハラと、続きが気になって仕方が無い。
昔であれば、それらを全て鵜呑みにし、何も考える事なく、そのままドップリと 浸かってしまったであろう事が、容易に推察できる。 整然とした言葉達を、その鮮烈さのままに右から左に受け入れるとどうなるか…。 言葉達はそのままの形で固まってしまって、思考が先へ進まなくなってしまうのだ。 受け取っただけで、それを基点に発展できない… 他の物事と、関連付けて考えられない。 だから、解釈が間違っていても気が付かない。自分で、自分の言葉に照らして考えれば、 自ずと見えて来るズレにも気が付かない、只々、言葉が表す形にのみ縛られる。
しかし今、いろいろな人と出会い、過去には想像も出来なかった様な話を聞き、 なかなかに奇異な経験もし体感もした、この時点で読んでみると、 いちいち納得できるところ、理解できるところが目白押しで、非常に面白いのだ。 言葉に捕われる事が無いから、溺れずに楽しむ事ができる。 自分の中の知識と経験との差異を見つけ、様々に解釈する事ができる。 全く違った形ながら、同じ事を語っている別の作品を思い浮かべたりする。 この作品を、こんなにも楽しめたのは、やはり今だからこそと思いつつ、 出会うべき時…というものがあるのだなぁ…と、改めて感心するのだった。
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という訳で、昨今は夢野久作の短編集などがweb上に上がっている… という情報も頂き、つらつらと読みに行ったりしております。 後、昔本屋でパラパラと眺めた時のイメージは、もっとエロティックな文章 だった様な記憶があったのですが、実際読んでみるとそうでも無いのですよね。 もしかすると、昔の記憶は、別の作品と混同していたのかもしれません。
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それにしても、梶尾真治のエマノンシリーズって、「胎児の夢」だったのだなぁ…と、 妙に納得したり…。ちょっと形は違うけどね。
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