徒然帳
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2008年03月01日(土) |
.....白紙の未来を塗りつぶせ!(復活) |
荘厳な鐘が鳴り響く丘に
深々と密やかに
真っ白な華を手に携えて
黒い姿の青年達が集う
ぐるりと囲まれたそこに置かれた黒い匣 一一一『X』の文字が刻印された棺一一一
そこに眠る存在を見送るために かつて眠る主人の使者達は沈黙して佇む
「一一一一一ダメツナが」
ボルサリーノの鍔を引き降ろし、無感情に真っ黒な子供が吐き捨てる。 そこに含められた感情は、言葉とは裏腹に温度差があった。 苛烈なまでの憤り、怨嗟、慟哭一一一一ときりがない。 一番彼の側にいて、彼を育て、その成長の様を見てきた子供は皮肉にも周囲の誰よりも感情を殺す事ができた。それ故に喪失の痛みは誰よりも深いが、それを見せるような事はなかった。
しかし見回せば皆が皆、同じようなモノを抱えているのが判る。 子供ほどの慟哭を抱えてなくとも。全てを呑み込んで噛み潰すには、棺に眠る存在は大きすぎた。自分達が守れなかった主人の前に力なく立ち、それぞれが黙祷を捧げる。
静かな、静かな哀しみに、埋め尽くされた空間が永く続く。
ああ、何故…… ああ、どうしてなんだと、ぐるぐる言葉が回る。
守れなかった 守れなかった 守れなかった
失ってしまったものが、あまりにも大きすぎて思考が動かない。 唯、ただ……もう二度と動かないのだと理解する。 もう、にどと。
優しい声が聞こえない 困ったように笑う微笑みも 柔らかく、甘い存在も一一一もい、いない
二度と差し出される事のない、その手は安らかに眠る人の胸の上で組まれている。 永劫の眠りについた姿は、今にも起きだしてきそうなほど綺麗であるのに。
目覚めない。 大切な、大切な人。 失ってからその大きさに、あらためて気づかされた存在は、黒い棺の中一一一白い華に埋もれて一一一一眠っていた。
そう一一一一一大絶叫と共に破られるまでは。
「っざっけんなァァァァーーーー!!!!!」
ザッパーンと、花びらが散る。 ガバリと勢い良く起き上がった棺の中の人物は、幼い姿をした少年であった。 今まで眠りについていた人間よりも幼い風貌の、忘れもしないかつて見ていた姿そのままに、少年は飛び出してきた。華まみれの少年はぐるりと周囲を一瞥した後、振り返って花の残骸残る棺を見つめ、深い、深い。それはもう海底何マイルに沈むんではないかというほどの溜め息を吐き出して項垂れた。
「せっかく……せっかく……もの凄く嫌んなる戦いを集結させてきたのに、コテンパンに白蘭ブン殴って正一をブッ倒して、基地もなんもかんも壊して壊して後腐れないようにしてきたのに……何なのさ、これ。やっと元の過去に帰れると思ってたのに飛ばされた先がまた棺の中ってどーなんだよー……」
中学生の沢田綱吉は落ち込んだ。 ずっぽりぐっきりと、深い穴の中にである。
「1回ならまだ許せる………でももう3回続いたし……フフ、これで4回目か……」
そうこの沢田綱吉は10年後の世界に行き、死んでしまった10年後の沢田綱吉の代わりに敵対組織をブッ潰してきたのである。壊滅寸前のボンゴレを救い上げ、さぁ元の時代に帰ることとなり飛ばされた先で目覚めれば、そこはやっぱりかな10年後の世界。リボーンも10年後の自分も死んでしまっているというなんともイヤーンな時代であった。 そうなれば役など決まっている。 またミルフォーレと戦い、この時代のまだ死んでいない仲間を助けることしかない。まだミルフォーレの侵攻も本格化していない時期が良かったのだろう。未来の情報を持つ綱吉を中心に再び守護者を集結させて先手とばかりに襲撃をかまし、あっという間に救い出して終結したのだ。これが2回目。
そんでもって再び戻るためにジャンニーニ改良型バズーカーを使ったのだが、それが悪かったのかもしれない。再び目を開けば今度は抗争中のど真ン中。僅かのタッチの差でリーボーンが死んでしまった時代。つまりドン.ボンゴレ10代目一一一沢田綱吉一一一が死んでしまっている時代である。 もちろんやっぱり死んでしまった10年後の自分の代わりに戦いに参加しましたとも! 嫌々ながらね!! (だって3回も同じ内容で戦ってるなんて、飽きてくるじゃんか!)←え? しかもしかも一一一一
「もしかしてもしかしなくとも10年後の俺が死ぬ前にトリップするまでこの状態が続くのか?」
凄く嫌だ。 なにが嫌だって、同じ事の繰り返しだからだ。 確かにだんだんと元の時代に戻ってきているのは判る。 最初はボンゴレの生き残りは少数であった。 本部も支部も壊滅状態で酷かった。 相手側の方が1枚も2枚も上手で厳しい戦いを強要された。
やっと帰れると思った矢先のドボン。 同じような未来風景に思わず嗤ってしまった綱吉である。 狂ってしまいたかったのに、なまじっか精神的に強かったために発狂もできずに渦中に巻き込まれ手島ッタ不運の人だ。 同じように棺桶トリップして、自分の所のリボーンと合流。今度は獄寺だけが同じ時代からトリップしてこなかったという更に輪をかけた不運の中、頑張ったとも。頑張ったさ。 なかばやけくそにミルフォーレに特攻しかけましたとも!! (獄寺君、死にかけ一歩手前だったなぁ……) そして終結一一一一させたのだ。
次にトリップした先はリボーンは死んでいたが、本部はまだかろうじて墜とされていなかったという未来世界だった。まぁ……かなりヤバイ状況であったが、支部も半分以上機能していたしボンゴレファミリーも最初の時代の半分以上は残っていたからかなり助かった。 こうなれば獄寺が居ようがいまいが戦力差は関係無くなるので、どっちでも。 リボーンと2人でミルフォーレをブッ潰したさ。
そんでもって三度目のトリップ先一一一一一一またもや棺桶の中。 ここである。
リボーンはどうやら生きていようだが、やっぱり未来の自分は死んでいた。 (あれ? リボーンの方が先に死んだんじゃなかったっけ???) 些細な疑問よりも大きく上回ったのは沸き上がる怒りのほうだ。あまりにも大きすぎる感情に支配された綱吉は、重大な見落としをしてしまう。 後から気付くのだがそれはしばらく経ってからだ。 (あぁー! もう、最悪ッ!!)
ちょうど葬列なんぞしくさっている最中だろうから、死んにたてホヤホヤなんだろう。ま、死んでしまっているので過去である自分が再び敵対ファミリーを潰すことになるのは確定済みだろうが…。
そうしなければせっかく今までにわたって未来を修正してきた意味が失われてしまう。自分……未来の沢田綱吉が死んでしまっているんだから、放っておけばミルフォーレ……いやそれ以外のボンゴレを目の敵にしているファミリーなどから反旗を翻すのも時間の問題で、過去を渡った自分がこの時代にいるならばこの先過去から自分がやってくる確率はかなり低い。前回の時も前々回の時も待っていたが、結局は過去から飛んできた沢田綱吉はいなかった。 自分が、いる所為でだろう……。
ならばやることは一つしなかい。
「あ、(俺の)リボーンはどうなったんだろ?」
はたと、思い出す。 ぐるんと見ればリボーンがいた。 この時代の、自分のリボーンじゃないリボーンが。
他のメンバーは知らないが、トリップ事故を起こした自分に、必ずといってよいほどついてきた。どうやら自分の所のリボーンは、今回はナシらしい。
最初に未来へ渡ったのは綱吉を含めてかなりの人数であった。 獄寺に山本はもちろんのこと、京子にハルといった一般人までいた。 他にも数人……とにかく過去から来たメンバーはそれなりに多かったが、知っている姿が視界にはいるというのは安堵をもたらしてくれるものである。 守るための力を持つ綱吉にしてみれば、状況は厳しいが背中を押してくれる事ともなった。 2回目のトリップにはリボーンと獄寺、山本のみがいた。 しかし三回目はリボーンと2人っきり。 ならば一一一今回四回目のトリップでは………。
一一一綱吉以外は変化が見られない。 もしかしなくとも、もしかしなくとも。
(俺、1人なのか……?)
ガガーンと擬音がバックに流れそうな表情でリボーン(10年後)を見つめて数秒、潤んだ瞳は哀愁にもにて。微妙な空気が2人の間に流れて数秒後一一一一またしても絶叫がこだました。
「いやっったぁぁぁぁーーーー!!!!!!!」
……………ぽっか〜ん
見守っていた周囲の面々は、棺から飛び出してきた少年一一一過去の沢田綱吉であることは10年バズーカーを知っているので判っている一一一を見守っていたが、いきなりの彼のハイテンションぶりについて行けずに間抜け面をさらすという失態をおかしてしまう。あの冷静沈着な雲雀でさえも呆然としていた。 そんな守護者+αに目もくれず、綱吉は歓喜狂乱していた。
「自由だ! 自由になった!! あの顔をあわせればボスになれ、ボスになる道しかないと脅してきやがる腹黒俺様暴力家庭教師から俺は解放されたんだァ!!! ドSな顔で『クックック、このダメツナが』とじつにイイ笑顔で銃をブッ放ち、やることなすこと鬼畜三昧、黒カビのごとくしつこいアイツからやっと、やっと…やっと……自由になったァァァ一一一一一一一!!!!!」
天に向けて握り拳を突き上げる『極限ポーズ』をする綱吉の姿に、微妙な顔をしたのは己の形容詞『家庭教師』を持つリボーンである。あまりの謂れようだ。
「俺のところのリボーンよ、さらばぁ一一一!! できることならこのまま永遠にお別れして自由になってやるぅぅぅ一一一一一!!!!」
ものすごい絶叫である。 よっぽど嫌だったのが、誰の目にもハッキリと伺える。 笑顔満開がさらにそれを拍車にかけていた。
「……………凄い謂れようだなぁ〜、坊主」 「十代目………そこまでリボーンさんのことを……」 「ねぇ、君。本当に何やったのさ」 「クフフ……じつにイイ表情ですね」 「若きボンゴレ……おいたわしや」 「うむ。極限に熱血しとるな」
「……………………………。」
一部すっとんきょうなセリフがあるが、守護者達の意見は同じ。 嬉々とした自分の主人の10年前の幼い姿に郷愁を感じていた。 ああ、懐かしい一一一一と。
繕った笑顔しか浮かべなくなった亡き主人は、立派なマフィアのドンであった。確かに歴代のドンと比べれば、甘いのかも知れない。悩んで苦悩して、少しずつドンであろうと努力した少年は、いつしか誰もが跪くファミリーのドンとなっていた。時には冷酷に、残酷さを垣間見せるようになるに連れて、彼の人の笑顔が消えてゆくのを知りながら、守護者達は見守ってきたのだ。 彼はそうして自分のモノを幾つか捨て生きて、逝った。
その捨てたモノを持つ、幼い彼が居る一一一。
なんて、眩しいのだろう 全力で生きて、足掻いている 懐かしい姿だ
いつだって彼は一生懸命に生きていた どんな困難に直面しようとも みっともなくとも
そこに道があるならば、進む事を厭わなかった
いつからそうでは無くなったのだろうか? 自分の命をあっさりと手放してしまうようになったのか? 環境がそう変えたのか、自ら変わったのかは解らない
ただこれだけは判った 独りで決めて、独りで逝ってしまった一一一一と
ああ、気づけなかった 手後れだった
「懐かしいですね、実に」 「あの頃はボスになるのをとことん拒んでたからなーツナのやつ」 「確かに足掻いていたね。なりふり構わず…」 「クフフ。高校卒業してからでしたか…彼がボスを了承したのは」 「あの根性は賞賛モノだったな。ずいぶんと手こずらせてくれやがったぜ」
眩しいものを見るように、守護者達は綱吉を見つめていた。
「未来なんてくそくらえーーー!!」
絶対に未来を改編してやると、綱吉は大空に誓うのだった。
そして未来は一一一一一一
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