女の世紀を旅する
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2005年01月17日(月) 地球大進化(2)

続き



【4】大量絶滅 巨大噴火が哺乳類を生んだ

地球生命史には「大量絶滅」と呼ばれる事件が計5回起きている。その当時の生物のほとんどが同時期に死滅した出来事である。



●P/T境界事変

 なかでも最大のものが、実に95%もの生物種が死滅した2億5千万年前、古生代ペルム紀末に起きた大量絶滅事件だ。P/T境界事変と呼ばれている。この事件で大きな被害を受けたのは、当時地球を支配していた私たちの直系の祖先、哺乳類型爬虫類だった。哺乳類型爬虫類はその後、一部が哺乳類へと進化したグループで、のちに恐竜を生みだした爬虫類(双弓類)と区別される。この時代は、恐竜祖先を私たちの祖先が圧倒していたのだ。その繁栄の時代に終わりを告げたのが、P/T境界事変だったのである



●史上最大級の火山噴火

 ペルム紀末の大量絶滅の原因はまだ一致した説はないが、最近になって注目を集めているのが、スーパープルームによる史上最大級の火山噴火だったとする説だ。スーパープルームとは、核から地表に向かう巨大なマントルの上昇流のことだ。今からおよそ3億年前、それまでバラバラだった大陸が、全て一箇所に集まり、パンゲアと呼ばれる超大陸を形成した。その周囲には、現在の日本付近のような深い海溝がぐるりと取り囲んでいた。海溝からは、海洋プレートを形成していた岩石がゆっくりと沈み込んでいくが、それがある時、一斉に地球の核へ向かって落ち込みはじめた。その反動として上昇流=スーパープルームが起きた可能性が指摘されているのである。


●大噴火の跡

 スーパープルームが地表に達すると、大規模な火山噴火を引き起こす。このときの大噴火の跡が、シベリア洪水玄武岩という名で知られる膨大な溶岩の塊である。西シベリアから中央シベリア高原にまで、同時期の溶岩が広く分布しているのだ。



●温暖化

 シベリアの大地を引き裂いた巨大噴火は次々と連鎖反応を生み出した。大噴火によって大気中の二酸化炭素が増加し、温暖化が起きた。温暖化は海水温の上昇を促し、その結果、大陸棚周辺部を中心に海底に分布しているメタンハイドレートが融解されて、大気中に膨大なメタンガスをもたらすことになった。放出されたメタンガスはその強力な温室効果で、さらに地球を温めていく。いわばこうした悪循環の連鎖反応の結果、当時の地球は過去6億年でもっとも温暖化が進み、同時に低酸素状態に陥ったというのである。



●低酸素

 植物が壊滅的な打撃を受けたこと、大気中に放出されたメタンが酸素を消費したことが相まって、この低酸素状態は長期間にわたって続くことになった。それまで30%以上あった酸素濃度がおよそ1億年近くも10%前半に落ち込んだのだ。



●低酸素環境に適応した爬虫類 恐竜の君臨

 この大量絶滅事件を辛うじて生き延びた哺乳類の祖先と爬虫類の祖先は、ともに低酸素環境への適応を迫られた。優れた適応を果たし地球に君臨することになったのは爬虫類、つまり恐竜であるという。やがては鳥に継承される特殊な呼吸器官「気嚢システム」を作り上げて、低酸素のなかでも高い活動能力を維持することに成功したとする説が最近発表され、大きな注目を集めているのだ。
   


●哺乳類の祖先の誕生

 一方、もともと酸素濃度が高い環境で誕生した哺乳類の祖先も改革を強いられた。その多くが、次世代を確実に育てるための生育システムに関わっている。胎生で子どもを生む、母乳で育てる。こうした哺乳類独特の生育システムは、実は低酸素対策から生まれた可能性があるという。胎生のほうが卵生よりも、多量の酸素を確実に胎児に届けられるという側面がある。授乳をする基本的な体勢は、母親が横たわって身体をねじるという姿勢だが、こうした姿勢ができるのは、横隔膜ができたことに伴って肋骨の下半分がなくなったことが大きく寄与している。横隔膜は哺乳類が呼吸効率の改善のために進化させたシステムである。次世代へのリレーを確実にすることで、哺乳類は未来を切り開いていったのである。




【5】大陸大分裂 目に秘められた物語

 恐竜絶滅後、私たちの哺乳類の時代がはじまったとよくいう。しかし、それは当然の結果というわけではない。私たち哺乳類の祖先は強敵との戦いを余儀なくされた。それは鳥、である。恐竜のいなくなった地上を広く支配したのは、空から舞い降りた鳥だった 。


●巨鳥ディアトリマの君臨

一部の鳥は飛ぶことを止め、巨大化し、肉食鳥として君臨するようになったのだ。特に北米からヨーロッパに君臨していた巨鳥はディアトリマと呼ばれ、私たち霊長類の直系祖先にとって恐ろしい天敵だったと考えられている。哺乳類祖先は恐竜絶滅後も、天敵に繁栄を抑えられる宿命にあったのである。


●哺乳類の巨大化

ところが、当時から現代は、地球史上もっとも大陸が四散している時代だった。この大陸大分裂が哺乳類進化のニッチ(すきま)を生み出した。唯一、巨大鳥のいなかったアジアで食肉獣(ネコ科ほか)は進化して巨大化していくことができた。


●哺乳類の時代の幕開け

温暖化によって北米とアジアが陸移動できるようになったとき、巨大化を果たした食肉獣は巨大鳥と十分に対抗できるようになっていたのだ。アジアで進化した肉食獣ハイエノドントが北米に渡り、ディアトリマを滅ぼした。このときから、哺乳類の時代が本格的に幕を開けたのである。


●霊長類の進化

一方、私たち人類の直系祖先である霊長類はどうであったのか。じつは私たちの直接の祖先=霊長類は北米出身。巨大鳥との熾烈な戦いを避け、立体視の進化を武器に樹上に活路を見出していた。
ところが、新生代の初期は急激な温暖化が起きた。そのおかげで森林が巨大化。木から木へと移動ができるようになったことで、危険な地上に降りる必要のなくなった霊長類は一大繁栄の時代を迎えることになる。


●全盛時代の終わり

しかし、この全盛時代ははかなく終わりを告げる。温暖化していた気候が一転して寒冷化をはじめたのだ。その原因は、南極大陸だ。南極大陸が南米やオーストラリアと分離して、孤立した大陸となった。その影響で赤道からの暖流が遮断され、急速に寒冷化、氷の大陸へと変貌していったのである。その影響は世界中に及んだ。世界中に広がっていた熱帯雨林は縮小し、森で暮らしていた霊長類の多くが住処を失って絶滅を余儀なくされた。


●視細胞フォベアの獲得

そこで、一部の霊長類(真猿類)は目を進化させた。それは「フォベアによる高い視力」の獲得だ。フォベアとは、網膜のなかで視細胞が集中しているところ。フォベアがあると、視界の中心付近は格段によく見えるようになる。研究者は、寒冷化のエサ不足のなか、このフォビアを獲得した霊長類は高い視力によってエサを効率的に見つけることで、厳しい生存競争を生き抜いたのではないかと考えている。
   


●目の進化が豊かな表情をつくる

こうした目の進化はその後、思わぬ進化を私たちにもたらした。それは「豊かな表情」という進化だ。フォベアを持つサルの仲間、真猿類は動物のなかでも「表情が豊かである」という共通点がある。ゴリラしかり、チンパンジーしかり、そして人類ももちろんそうである。そうした豊かな表情が進化した理由は、明白だ。高い視力によってお互いの表情を見分けるようになったことだ。

 真猿類は、表情を介するコミュニケーションを構築しはじめたのだ。それは社会を構築する第一歩になった。サルの群れは個体を認識することで役割分担を積極的に推し進め、“ともに生きる”社会へと歩みはじめたのである。立体視・高い視力・社会の形成。目の進化には、霊長類進化の道筋が隠されているのである。




【6】ヒト果てしなき冒険者

荒ぶる星・地球。その繰り返される大変動に対し、生命の採った戦略とは多様性である。次々と多様な種を分化させることで、地球の激しい環境変動に対抗してきたのだ 。

●20種のヒト祖先の登場と絶滅

それは、私たち人類の祖先も例外ではなかった。猿人から現代人まで、ほぼ一種の祖先が進化してきたと思われていた人類も、多様な種を生み出していたのである。同じ時代・同じ場所に複数の種が併存していたことも、決して珍しくなかった。研究者によっては、チンパンジーの共通祖先と分かれて以来、ホモ・サピエンスまで、20種ものヒト祖先が登場しては絶滅したと考えている。私たちヒトも環境変動に対し、多くの種を生み出しては、そのうちのたった一つの種が生き残るというプロセスを繰り返していたのだ。


●二種のヒト祖先が残る

もっとも顕著な違いのあった二種のヒト祖先が併存していたのは、およそ200万年前のころになる。ホモ・エルガステルとパラントロプス・ロブトスと呼ばれる二種類のヒト祖先だった。長身でスラリとした体型のホモ・エルガステルに対し、パラントロプス・ロブトスは丸顔でずんぐりした体型をしていた。こうした両者の違いは、いったい何が生み出したのか。じつは、主食としていた食糧の差である。


●両者の分化

もともとヒト祖先は樹木生活者であり、主食は果実だった。ところが、アフリカで乾燥化が進んで熱帯雨林が減少した。その背景には、大陸衝突によるヒマラヤの形成と、地下のマントルプルームによるアフリカ地溝帯の形成がある。この二つの大変動のために、アフリカ内部は乾季と雨季のはっきりしたモンスーン気候が発達したのだ。熱帯雨林がモザイク上に残る環境変化のため、ヒト祖先は草原に進出してほかの食糧で補うことを余儀なくされた。そのとき補った食糧の違いが両者を分化させたのだ。ホモ・エルガステルが肉食を本格化させて補ったのに対し、パラントロプス・ロブトスは植物の地下茎・根っこを主食にしていったのだ。


●肉食のホモ・エルガステル

いまだ石器などの技術が未熟だったホモ・エルガステルなど初期のホモ属の肉食は主に死体あさりだったと考えられている。肉食哺乳類の残した死体をみつけ、骨についた肉の残りや骨のなかの髄を食糧としていたのだ。じつはこうした肉食がその後の人類に脳の巨大化という思いがけない進化をもたらすことになる。


●肉食と脳の巨大化

人類の脳が巨大化した理由はまだ分かっていない。しかし、肉という高カロリーな食糧が脳の巨大化を支えたのは間違いない。脳は全体重の2%の重さしかないが、20%ものエネルギーを消費するやっかいな臓器なのだ。その後、肉食を本格化させていった祖先は脳をどんどん巨大化させていくことになる。ホモ・サピエンスにいたって、その大きさは1400mlにもなった。

しかし、脳の単純な大きさだけがホモ・サピエンスの特徴というわけではない。じつはホモ・サピエンス(クロマニョン人など)に先立ってアフリカで生まれ、3万年前に絶滅したネアンデルタール人(アフリカからヨーロッパへ進出。30万年前から3万年前にかけて活躍したが絶滅。埋葬の風習を残したことは有名。)も脳容量は同じ1400mlだったのだ。この両者の差とは何であったのか。


●言葉=第二の遺伝子がホモ=サピエンスを飛躍的に進化させた

さまざまな研究から浮かび上がってきているのは、言語能力の差である。声帯の位置と気道の長さの違いから、ネアンデルタール人はホモ・サピエンスほど流ちょうに言葉を扱えなかったという説が注目されている。言葉とは、“第二の遺伝子”ともいうべき存在だ。言葉を操ってコミュニケーションをとることで、ヒトは経験や知識を次世代に伝え、より効率的に食料を確保できるようになった。つまり、私たちは遺伝子の突然変異という方法によらず、確実に進化する手段を手に入れたのである。この差が、ネアンデルタール人を絶滅に、そして私たちを繁栄に導いた可能性が高いのである。


【7】そして未来へ


 栄え過ぎて進化を忘れたものには絶滅が待っている。これが進化の理(ことわり)である。現在の地球で人類はもっとも栄えている,栄え過ぎている。地球に住む人は63億を越え,人口爆発が続いている。

 しかも文明社会の中でなに不自由ない生活に安住している今,人類にはもはや遺伝子による劇的な変化は起こらないだろうとも言われている。今の人類は進化を忘れたかつての海の王者,バンピルイ(巨大魚)と同じ運命をたどるのかもしれない。

 人類は言葉を操ることによって,この先に地球を襲う変動を予測することが出来るところまで来た。

 今,地球上の大陸は徐々に一つに集まろうとしている。およそ2億年後には再び超大陸が誕生すると考えられている。その時,超大陸を割るようにスーパープルームの突き上げがあるかもしれない。恐竜を絶滅させた規模の隕石衝突は数千万年に1度起こると推定されている。恐竜の絶滅から6500万年経った今,いつまた巨大隕石が人類を襲うかも知れない。

 しかし,天と地からの大変動を待たずしても実は地球は大変動の真っただ中にある。毎年,人類は200億トン以上の二酸化炭素を排出している。これは2億5000万年前のスーパープルームによる二酸化炭素排出ペースの300倍以上に相当する。スーパープルームがきっかけで地球が灼熱地獄になるまでには10万年単位の年月がかかっていた。現在,人類が引き起こしている変動は生物の95%を絶滅させた事件よりはるかにペースが速い。

 バクテリアだった人類の祖先はずっと弱者の道を歩き続けた。弱者だったことが幸いして地球の変動を力に変えることが出来,40億年かかって人に進化した。そして,言葉を手に入れた時,ついに人類は地球の覇者になることを約束された。しかし,それは勝者必衰の理(ことわり)への第一歩であり,自滅への入り口だったのかもしれない。

 人類が生き残れるか否か,そのカギを握るのは人類をここまで進化させる原動力となった言葉だ。言葉を使って,自らの暴走に歯止めをかけ,言葉によって共に協力しあう。言葉という諸刃(もろは)の剣,その使い方いかんに人類の未来がかかっている。


カルメンチャキ |MAIL

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