vol.4 その日がやってきた - 2001年11月16日(金) 私が教えてもらおうと思ったその人は、某楽器店の音楽教室でも教えているとかで、彼の自宅に通うよりもそっちのほうがずっと便利なので、月謝は割高になるけどそこに決めようと思った。実はその教室は、学生時代から、そしてピアノ教師としてそろそろ中堅どころになってきた私が一番関わりたくないとずーっと思いつづけてきたヤ○ハ音楽教室である。もっとも便宜上そうしているだけのようだ。観念するしかないな。 で、そこの体験レッスンに行って師匠と直接会ってみて、レッスンの雰囲気やJAZZピアニストそのものの感触?を確かめてみたかった。それが今日だった。 新しい師匠会うのはとてもドキドキ、ワクワクしていたけど、教室に行く途中、次第に緊張してトイレに行きたくなった。予定より早く着いてしまったのを幸いに、受付の若いお姉さんに挨拶だけしてトイレに走った。そのときピアノ室の中にえんじ色のシャツを着た師匠らしき人が座って指ならしをしているのがドアのすりガラス越しにぼうっと見えた。その人はメールでしか話した事のない、顔も声もよく知らない人なのに、お互い名前と存在だけ知っている、なんか出逢い系サイトで出会った男の人に初めて会うみたいでなんか変な感じ。あ、でも私決してやった事ないからね、出逢い系サイト。 トイレから戻ってきたら、受付の横の小さなテーブルのところに、若いお兄さんが遠慮がちに座っていた。(あれ?えんじ色着てるけど、だあれ?) 受付のお姉さんが「こちらが○○先生です」と、そのえんじ色を紹介してくれた。 あら、まぁ!40代の妻子持ちだと思っていたのにセンセイ若いじゃーん! これはちょっとした誤算。既婚か未婚かわかんないけど、この際そんなことはどうでもいい。Photoのひたいの面積で判断したワタシが失礼な女だったのだ。あとで受付の女の子に「先生ってもっと年上かと思ってた」と言うと、彼女は彼の年齢を教えてくれた。なんと同い年だった。 その誤算にすっかりうろたえた私は、緊張が増してしまって、師匠とはちっとも話がかみ合わなかった。「以前ラプソディ・イン・ブルーを弾かれたんでしたっけ?」と過去の事を聞かれたのに、今日弾く予定の曲名を聞かれたのかと勘違いし、「え?そんな難しいの弾けません」などと言ってしまった。家に帰ってから自分の間違いに気がついた。よっぽど緊張していたようだ。 この日は家でショボショボ弾いていたガーシュインのオリジナルピアノ譜のLISAを弾いた。めちゃくちゃあがってちっともうまく弾けない。ぼろぼろ。「ここの左手の10度のところ、音がとんでるのによく弾けますね。これ、手が届いたら一度に掴むところなんですけど、届かない人が多いから楽譜ではこんな風に書いてあるのかな…」あまりのひどさに余程言う事がなかったのか、そんな誉め方をしてくれた。10度のアルペジオなんて普段ごく当たり前に弾いてるのに。そんなこと誉めてもらったら却ってみじめだ。そして言うには、私の弾く付点のリズムはいかにもクラシックらしくカタイのだそうだ。そうだろうな。ジャズ・ハノンって本に「ジャズにおける付点のリズムは3連符のように弾かれる」みたいなこと書いてあったもんな。クラシックでそれやったら、「付点が甘い」って注意されるけど。 で、師匠は今後のレッスンの展望を「枯葉」を使って説明してくれた。 今の私には扱えないジャズのコードが次々現れて、まるで魔法を見ているようだった。彼の手は大きかった。手の小さい自分を久しぶりに再認識して、少し淋しくなった。 今日はトミー・フラナガンが亡くなったそうだ。 ...
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