観能雑感
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2006年04月14日(金) 銕仙会 4月定期公演

銕仙会 4月定期公演 宝生能楽堂 PM6:00〜

 未見の曲が出るので観に行く。中正面後列正面席寄りに着席。今日は通常よりも空席が目立った。

能 『七騎落』
シテ 土肥 実平 大槻 文蔵
子方 土肥 遠平 小早川 康充
ツレ 源 頼朝  岡 久廣
ツレ 田代 信綱  野村 昌司
ツレ 新開 次郎  泉 雅一郎
ツレ 土屋 三郎  安藤 貴康
ツレ 土佐坊  遠藤 和久
ツレ 岡崎 義実  武田 宗和
ワキ 和田 義盛  工藤 和哉
アイ 船頭  山本 則孝
笛 藤田 大五郎(噌) 小鼓 北村 治(大) 大鼓 安福 健雄 (高)
地頭 山本 順之

 石橋山の合戦に破れた頼朝一行は船で安房逃れる。祖父や父の先例から総勢8名であることを不吉とした頼朝の命により、一人下船することとなり、土肥実平の息子の遠平が岸に残る。加勢に来た和田義盛の船に救出された遠平が匿われており、酒宴の席で実平が舞う。
 頼朝の装束は一見豪華だが、やはりシテの法被、半切が最も華やか。うつらうつらしている内に舞台は進行。遠平が下船する際、一行はその姿を見送るが、父である実平は身動きせず、子方が幕内に消えようとする間際、一度だけ振り返る。父の無念さが凝縮された型だった。和田が加勢に来て親子対面、舞となって終曲。
 平家物語の時代の武士とは明らかに異なった価値観の上に構築された物語であり、あまり魅力を感じない。近世の武士道による視点で描かれているが、戦場の切迫感から程遠い。特に和田の加勢に対し実平が頼朝は死んだと返答、自ら死のうとする様子を見るにいたって疑いを解くという流れはいかにも不自然。男舞は囃子がちぐはぐで、風が巻き起こるような爽快感がまったくなく、ひたすら停滞。舞台全体の展開も切実な思いというのがあまり伝わってこず、残念ながらただなんとなく始まり、終了してしまった。

狂言 『縄綯』
シテ 山本 則直
アド 山本 泰太郎、山本 則俊

 主の借金の形に何某のもとへ送られる太郎冠者。しかし何某の命には従わず、いったん主の下へ戻される。主と供に縄を綯いつつ、何某の家の悪口をさんざん言うが、主はいつの間にか何某に変っていた。今回初見。
 太郎冠者は理由を明らかにされずに何某の家に送られたのが気に入らず、外出を命ぜられれば、脚気だと言い、縄を綯えと言われれば不得手であると答え、一向に従わない。さすがに腹を立てた何某から水を汲んでこいと言われるに到って、太郎冠者は不快感を露にする。則直師、則俊師双方が一歩も引かない態での言葉の応酬に緊張感が漂いつつも、可笑しい。何某からの苦情を聞いて何とかしてみせるからと言う主の下に呼び戻され、嬉々として縄を綯いつつ何某の家の子供や奥方の悪口を言う太郎冠者。思えばずっと騙されているのは彼ばかりであり、なかなか皮肉な筋立てである。太郎冠者は縄を綯うのが上手であるという設定で、舞台上、実際に縄を綯う様子を見せるのだが、かつては生活に密接していたであろうこの作業が、現代ではあまりにも遠いものになっている。縄の端を持っているのが何某だと気づき、太郎冠者は自分が口にしたのは他家の事情だと言い訳するが、納得されるはずもなく、追いかけられつつ、終曲。
 奉公人の尊厳と処世、そして哀れさが描かれていて、面白い曲だった。演者の好演も光った。

能 『項羽』
シテ 観世 銕之丞
ツレ 観世 淳夫
ワキ 大日方 寛
ワキツレ 御厨 誠吾
アイ 山本 則秀
笛 藤田 朝太郎(噌) 小鼓 幸 正昭(清) 大鼓 亀井 実(葛) 太鼓 三島 卓(春)
地頭 浅井 文義

 前シテは尉髪ではなく背中に垂らした髪を一本にまとめていた。草刈男から船賃としてもらった美人草を手にした姿が、とても愛しそうだった。後シテの面は筋男で、異国の雰囲気が出ていた。中国物ということから雅楽装束である裲襠を付けたのだろうが、派手な法被の上からではほとんど引き立たず、効果の程は疑問。ツレは唐織着流しに長絹。面はなし。
 曲そのものの展開があっさりしていることも確かだが、舞台として観る者の心に訴えかけてくるものがなく、ただ始まって終ったという感じ。

 すぐ前列の人が携帯電話を鳴らしたり、隣の人は演能が始まってもメールを打ち続けていたり、すぐ前の人が頭を動かし続けていたりで、舞台同様見所の雰囲気も散漫だった。残念。


こぎつね丸