観能雑感
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2004年09月04日(土) 矢車会

矢車会 観世能楽堂 AM9:00〜

 観世元信、元伯師主催の素人会。豪華な素人会は貧乏人の味方である。
 全部観るのは不可能なので、番組を見つつ見当をつけて12時に開場に到着。新たに番組と粗品を渡される。中身は虎焼き。無料で見せてもらう上にお土産まで頂戴して、やはり恐縮するのであった。
 非常な混雑を予想していたが、幸い空席があり、中正面脇正面寄り後列に着席。
 予定より30分程早く進行していて、お目当てを見逃すところだった。
 以下、出演者は玄人のみ記載。

舞囃子
『遊行柳』青柳之舞 朽木留   武田 宗和
笛 松田 弘之(森) 小鼓 幸 清次郎(清) 大鼓 亀井 忠雄(葛)
『舎利』  坂 慎太郎 津田 和忠
笛 松田 弘之(森) 小鼓 観世 豊純(観) 大鼓 安福 光雄(高)

 見所に入るとすでに始まっていた。青柳之舞は陰陽五行説で青=春のため、序ノ舞の初段、ないしは二段まで奏するらしい。『舎利』は動きが大きく面白いのだが、注目しているのは主に笛座。舞働が聴き所。

一調
『おかしき天狗』  山本 東次郎
山本東次郎師と観世元信師の合作。素人の方が打たれるのは今回初めてとのこと。

一調一管
『花重蘭曲』  一噌 隆之
森田流の蘭曲に習って一噌庸二師と観世元信師が作ったとのこと。神楽や獅子などのメドレー。

舞囃子
『天鼓』盤渉  藤波 重彦
笛 藤田 次郎(噌) 小鼓 観世 豊純(観) 大鼓 安福 光雄(高)
『箱崎』  鵜澤 久
笛 一噌 隆之(噌) 小鼓 鵜澤 洋太郎(大) 大鼓 安福 光雄(高)
『船弁慶』  観世 喜正
笛 藤田 次郎(噌) 小鼓 観世 豊純(観) 大鼓 安福 光雄(高)

 盤渉楽が聴けたので嬉しかった。鵜澤久師がシテを勤められているのを観るのは初めてなのだが、体に一本線が通り、微動だにしない上半身。すっと伸びた背中が美しく、凛々しくも神々しい神功皇后であった。今日拝見した中で最も清冽な印象。観世喜正師は謡も所作も今ひとつ練られていない様子。

連調 『猩々』
 総勢13名が舞台で同時に太鼓を打つのは壮観。いかにも発表会という雰囲気で、微笑ましかった。

能 『巻絹』出端之出 打出之出 総神楽
シテ 梅若 六郎
ツレ 梅若 晋矢
ワキ 宝生 閑
アイ 山本 東次郎
笛 松田 弘之(森) 小鼓 幸 清次郎(清) 大鼓 亀井 忠雄(葛)
地頭 武田 志房

 橋掛かりにたった六郎師、横から見ると体格の良さが一際際立つのだが、正面から見ると不思議な事に実にほっそりと優美に見える。何故。金糸が織り込まれた鳥の子色の縫箔、同系色で春草文様の長絹、長鬘、両サイドに垂れ髪、面は少々冷たい印象の増で、神秘的で美しかった。とは言いつつも、主に観ていたのは笛座。まがりなりにも笛を手にするようになって、やはりいろいろ気になってしまうのである。小書なしの『巻絹』をまだ見たことがなく、以前観たのもやはり笛は松田師で諸神楽。神舞に直った方が個人的には好きなのだが、本日じっくり聴いて、これはこれで良いものだと再認識。力強く、少しづつ高揚していく感あり。
宝生閑師が大分お疲れの様子なのが気になった。

独鼓
『老松』  関根 祥丸
『鶴亀』  上田 公威

 太鼓はどちらも元伯師のお嬢さんらしい。最初にでた下のお子さんはまだ3歳くらいだが、実にしっかりした太鼓でびっくり。すぐ後ろに座った父上が振り上げられる撥に思わず目をつぶる姿が可笑しかった。上のお子さんは前に座りすぎてしまったようで、父上に腰のあたりを掴まれ引き戻されていたが、これも微笑ましかった。

舞囃子
『吉野天人』  鵜澤 光
笛 一噌 仙幸(噌) 小鼓 鵜澤 洋太郎(大) 大鼓 國川 純(高)
『羽衣』和合之舞  小川 明宏
笛 一噌 仙幸(噌) 小鼓 鵜澤 速雄(大) 大鼓 柿原 崇志(高)
『海人』海中之舞  角 寛次郎
笛 寺井 久八郎(森) 小鼓 亀井 俊一(幸) 大鼓 亀井 忠雄(葛)
『百萬』  下平 克宏
笛 藤田 朝太郎(噌) 小鼓 亀井 俊一(幸) 大鼓 亀井 忠雄(葛)
『小塩』  大松 洋一
笛 一噌 仙幸(噌) 小鼓 亀井 俊一(幸) 大鼓 國川 純(高)
 
『羽衣』の前に『弓八幡』があったのだが、トイレ休憩に充てた。仙幸師、また音量が小さくなってしまったような気がするが、密やかで繊細な音は傾聴に値する。久八郎師、こんなところで息継ぎしてもいいのかと疑問に思うところ数箇所。なんだかなぁという印象は相変わらず。

 番組はまだまだ続いて大五郎師の一調一管や半能の『獅子』もあるのだが、以上で退出。
 それにしてもいくつも小書を付けて豪華出演者で能を出すというのは、あるところにはあるのだなぁとただ嘆息するのみ。そういう方がいらっしゃるからこそ、こちらは無料で楽しませていただけるのだが。ありがたい1日であった。  


こぎつね丸