観能雑感
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| 2004年06月26日(土) |
趣向を変えてはみたものの |
というわけで、「能楽堂とは一味違う一噌幸弘の笛」を聴きに、憂さ晴らしも兼ねて(あああ・・・)西新橋はSOMEDAYにやって来た。月に数回の割合でライブ活動を行っている幸弘氏、組む面子にはいくつかパターンがあるらしく、今日はベース水谷浩章氏、ドラム戸山明氏という面々。ジャンルはコンテンポラリージャズという区分になってはいたが、この単語が内包する世界は限りなく広いので、聴いてみないことには何とも言えない。 地下一階の店内は5〜6割程度の入り。能楽堂よりも冷房がきつく、とにかく寒い。そしてステージと控え室が離れていて、演奏者は客席を横切ってステージにたどり着くのであった。スタート前に紋付羽織姿でうろつく幸弘氏、客入りが気になるのと、単に落ち着きがないのと、両方だろうか。 7:50分に、おもむろに一人で登場した幸弘氏の『獅子』で演奏スタート。一管の獅子というのもなかなか良いものだった。大迫力。次はまだ出来たばかりでタイトル未定だという曲。能管よりは長くフルートよりは短い田楽笛使用。音もフルートに似ている。その後は角笛を取り出し『角笛協奏曲』とのこと(あまりにもそのまんまなタイトルではある)。先ではなく根元に息をあてて吹く。そして話には聞いていたものの、実際に目にするのは初めての縦笛2本同時吹き。角笛とリコーダー、リコーダー2本と、きちんとアンサンブルになっていて、なおかつ超高速吹きも見せる。とにかくなんだか凄い。さらに何曲か演奏の後、休憩時間。そして2部スタート。やっぱりタイトルが無い曲等々色々。最後の『田楽幻想』とう曲が強いて言うならば一番気に入った。 とても良いなぁと思ったのがリズムセクションの2人。どこまでも無機質な笛を温かみのあるリズムが支えるというよりは包み込んでいるようで、そして演奏する2人はとても楽しそうだった。仄聞し、またテレビ番組でその一端を垣間見ているシベリアの永久凍土を思わせる幸弘氏のトークにも笑ってみせる優しさも(単に慣れているだけなのかもしれないが)。バランスのとれたトリオだと思った。 さて、幸弘氏の笛である。上手いのはもう言うまでも無い。音も美しく、音量十分、リズムも正確で超絶技巧。しかしそれ以上のものを感じられないのは能で受ける印象と同じであった。そしてどの曲も全て似た印象。単に音の有り様を追求しているだけに感じられ、音楽を通して何か表現したい事がこの人にはあるのか、と思わずにはいられなかった。 私はこのように感じたのだけれど、常連と思われる熱心なおばさまもいたし、こういう演奏を好ましく思う人もいるわけで、それで良いと思う。
吹いている時のどこを見ているのか分らない視線、そしてあれだけの勢いで吹き続けて汗ひとつかいていない姿は、なかなか怖いものがあった。
どうやら隣のテーブルに座っていた数人の若い女性は幸弘氏のお弟子さんらしく、その中の一人はチラシやアンケートを配っていて弟子とはそこまでするものなのか?と大きなお世話と知りつつもふと疑問に感じる。演奏終了後は先生との歓談タイムになっていて、近くにいた私は一方的にではあるが何とも言えない居心地の悪さを感じて、早々にその場を後にしたのだった。いろいろな世界がある。
正直、またわざわざ聴きに行きたいとも思わなかったし、CDを買ってまで聴きたいとも思わなかった。
トークの中で、7月25日の『題名のない音楽会』と、放送日時は知らないが(本人談)『芸能花舞台』に出演する旨が明らかになる。日曜の午前中に相応しいキャラなのかどうかは微妙・・・。公共放送では『獅子』を吹くそうで、序ノ舞ではないところはN〇K、ツボを押さえているという感じ。
このところ何故か無性にリストが聴きたくなって、CDを買う。ホルヘ・ボレットというピアニストの晩年の演奏なのだが、超絶技巧を必要とする曲がほとんどを占める中、むしろそれは押さえ目で、静かに曲と、また自分と対話しているような演奏に、その人がこれまで生きてきた人生を感じた。音楽とは、そういうものだと私は思っている。
こぎつね丸
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