観能雑感
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2004年06月19日(土) 橘会

橘会  梅若能楽学院会館  AM10:00〜

 梅若六郎師主催の素人会。今回ありがたいことにご紹介いただいて、足を運ぶことに。超豪華囃子方出勤で、これが無料で観られるとは正に僥倖。このところ身辺慌しくて出かけられるかどうか不安だったが、疲労よりも興味が勝ったのであった。何と言っても松田師の笛が存分に楽しめる機会なのだ。
 無論全部観られるわけもなく、番組のこのあたりからと見定め出かける。梅若能楽堂に行くのは初めてで、予想通り迷った。駅前の道路が工事中で見通しが悪かったのも影響したと思われる。歩いているところを声をかけて下さった方がいて、同行させていただいた。ありがとうございました。
 到着して見所への階段を上がろうとすると、係りの方がわざわざ追いかけて来て下さって「おみやげをどうぞ」と包みを手渡して下さる。縁もゆかりもない私が頂戴していいのだろうか、と内心恐縮するも受け取る。中身は葛切りで、翌日おいしく頂いた。

 見所はほとんど埋まっていて、脇正面後列、揚幕のすぐ脇に位置する補助席に座る。見通しが良い席ではないが囃子の音は実に良く聴こえ、また普段とは異なる視界を楽しんだ。一心に囃子方を注視している姿は怪しかったであろう。
 4時頃入場した時は『朝長』の素謡の最中。以降の番組を玄人のみ記載。予定より1時間遅れての進行。

舞囃子
『葛城』大和舞
笛 松田 弘之(森) 小鼓 曽和 正博(幸) 大鼓 安福 健雄(高) 太鼓 助川 治(観)
『絃上』
笛 松田 弘之(森) 小鼓 曽和 正博(幸) 大鼓 安福 健雄(高) 太鼓 助川 治(観)

 微妙に首をひねりながらひたすら笛の手元を見つめる。右手の構え方はやっぱりああいうカンジでいいんだよなぁなどとあれこれ思う。早舞、颯爽としていて喜んで成仏したい気分になった。

仕舞
『善界』
『清経』キリ

舞囃子
『羽衣』彩色
笛 松田 弘之(森) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 亀井 広忠(葛) 太鼓 助川 治(観)
『高砂』八段之舞
笛 一噌 仙幸(噌) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 亀井 広忠(葛) 太鼓 助川 治(観)

 彩色は様々な囃子のパターンが部分的に出てきて楽しめた。仙幸師は今は玄人会ではこういう強いものを吹かれないので新鮮だった。

能 『自然居士』
子方 梅若 美和音
ワキ 宝生 欣哉
ワキツレ 御厨 誠吾
アイ 山本 東次郎
笛 松田 弘之(森) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 亀井 広忠(葛)

 『自然居士』はこれまで映像でしか見たことがなく、実際に舞台で観るのは今回が初めて。
 能が始まる直前に補助席から空席になった定席に移動。脇正面の最も橋掛かり寄り。というわけでこれまでで最も間近に源次郎師の手を拝見する機会となった。言うまでも無いが指が長い。そして細い!!!一瞬のことなので気分は「少女の姿しばし留めん」である。
 欣哉師は実に憎々しげに人商人の役を務めていて上手いなぁと思うのであった。下居姿の美しさ、そして装束に全く余計な皺が寄らないところは相変わらず見事と言うしかない。棹を持つ手の袖さえきれいなのだ。
 芸尽くしが見所のこの曲、中之舞、鞨鼓と笛の音を楽しんで、喜びに浸った。

舞囃子
『通小町』雨夜之伝
笛 松田 弘之(森) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 亀井 広忠(葛)
『安宅』滝流
笛 一噌 仙幸(噌) 小鼓 大倉 源次郎(大) 大鼓 亀井 広忠(葛)

笛はそれぞれ逆の方がそれらしいような気もしたが、仙幸師の男舞を聴くのは初めてだと思うのでやはり新鮮だった(が、後日確認すると初めてではなかった)。

番外仕舞
『岩船』 梅若 六郎
地謡は例外的に8人。切れ味の良い動きはさすがの一言。

 今年はどうも松田師との縁が薄く、その音を聴く機会がほとんど無かったのだが、今日その埋め合わせをするかのように沢山聴くことが出来て、ただただ嬉しかった。自分はこの方の笛が好きなのだなぁと改めて確認。舞は勿論のことアシライが素晴らしい。あの独特の高音は何度聴いても良い。心を揺り動かす笛。行って本当に良かった。満足。


こぎつね丸