観能雑感
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2004年06月06日(日) 観世会定期能 

観世会定期能  観世能楽堂 AM11:00〜

 土曜日から続けての観能。何しろ体力がないので2日連続は避けたいのだが、東西二大巨頭揃踏みとあっては行くしかないのであった。
 開場後間もなく到着。中正面後列脇正面寄りに席を取る。睡眠不足なのが気になるが仕方がない。
 記憶曖昧、気力減退により簡単な記述にとどめる。

能 『道明寺』笏拍子之伝
シテ 関根 祥六
前シテツレ 武田 尚浩
後シテツレ 観世 芳伸
ワキ 村瀬 純
ワキツレ 村瀬 堤、中村 弘(番組に記載なし)
アイ 山本 則重
笛 杉 市和(森) 小鼓 観世 新九郎(観) 大鼓 安福 健雄(高) 太鼓 助川 治(観)
地頭 谷村 一太郎

 作者不明。観世、金剛流のみ現行曲。喜多流は参考曲。今回初見。
 菅原道真ゆかりの寺において木槵樹の由来とその実で作る数珠の功徳、観音と阿弥陀が一体であることが主眼。末社の神白太夫による寿ぎと、善光寺如来の夢想により参詣に訪れた相模の僧尊性に木槵樹の数珠を与えるところが見所。曲の背景が解り難いので事前に知っておいた方が楽しめると思われる。
 正先には木槵樹の作り物が出される。生木に見えた。
 前シテは宮守の翁。ツレは宮守。尚浩師のツレが良いバランスで舞台が引き締まる。常座での立ち姿は全身に緊張感が漲っていた。正体を仄めかし、中入。
 アイは末社の神。きびきびした舞振り、見ていて気持ちがいい。
 後ツレは天女。常の形では天女の舞を舞うが本日は小書付きなのでなし。続いて後シテ、白太夫の登場。袷狩衣、半切、鳥兜に白垂、面は茗荷悪尉か。手に笏を持つ。白太夫は缶(ホトキ、曲中ではホドギ)や笏を打って拍子を取る役割を担っているそう。楽はシテが蔓桶に腰掛け笏拍子を取る中ツレが舞い、途中からシテが舞い始める。笏拍子は雅楽で聴く印象とは随分と異なり、拍子木を打ち合わせるような乾いた音だった。最後に木槵樹の枝を揺すって実を落とすという写実的な型があった。
 祥六師、神さびた雰囲気はよく出ていたものの、ややお疲れなのかなぁという印象。
 杉師の楽は初めて聴くが、これまで聴いたことのあるものとは随分違った印象で、自分の意識の中でこれは楽なのだと認識するのにかなり時間がかかった。

狂言 『鎌腹』(大蔵流)
シテ 山本 則直
アド 山本 則重、山本 泰太郎

 いっこうに働こうとしない夫に腹を立てた妻が棒に鎌を付けたものを持って夫を追い回す。仲裁人によりなんとかその場を治め、山に木を切りに行く夫。妻に殺されるくらいなら自分から死んでやると鎌で腹や首を斬ろうと試みるが、いずれも失敗。思い直して真面目に働こうと決めたところに、妻が登場。夫に死を選ぶなら、自分も川に飛び込んで後を追うと告げると、夫はそれなら自分の代わりに死んでくれと口走り、怒った妻に再び追いかけられる。
  プライドだけは高いダメ男というのは始末に終えないと思う。橋掛りで妻が傍らを通り過ぎる時の怖がり具合が可笑しかった。その後は夫による自害シミュレーションが続くがやや冗漫な印象。しかし本人は極めて真剣に検討しているので、その様子がやはり可笑しい。わざわざ大きな声で人に知らせたりと、どこまでも見栄だけはあるのだった。最後の一言はやはり言ってはいけないと思う。しかしこの二人、これが楽しいのかもしれない。

能 『百万』法楽之舞
シテ 片山九郎右衛門
子方 観世 智顕
ワキ 工藤 和哉
アイ 山本 泰太郎
笛 一噌 仙幸(噌) 小鼓 曽和 正博(幸) 大鼓 亀井 忠雄(葛) 太鼓 金春 惣右衛門(春)
地頭 野村 四郎

 シテの登場、子を探す母というよりは、芸を見せる狂女という印象が強く、悲壮感はない。若干面の位置が高めのような気もしたが、徐々に気にならなくなった。何と言えばいいのか、全身に気が行き届いてそれでいて全く威圧的でない。いつもながらどこか愛らしさが漂う姿。そしてこの方の謡、やっぱり好きである。
 小書付きのため、イロエの代わりに序ノ舞が挿入。完全な形ではなく久に位が上がって唐突に終了。トランス状態が冷めた様子を表しているように思えた。地謡も本日では一番良く、気持ち良く聴いているうちにクセのあたりで猛烈な眠気に襲われる。後は半覚醒状態に。番組中最も観たかった演者なので残念。しかし仕方がない。それでも観られて良かった。

仕舞
芦刈  藤波 重和
芭蕉  観世 清和
自然居士  坂井 音重
猩々  観世 芳宏

能 『野守』
シテ 武田 宗和
ワキ 和泉 昭太郎(代演 宝生欣哉)
アイ 遠藤 博義
笛 藤田 朝太郎(噌) 小鼓 亀井 俊一(幸) 大鼓 大倉 三忠(大) 太鼓 徳田 宗久(観)
地頭 角 寛次郎

 思わぬところで欣哉師を観られて嬉しかった。思えばこの方のワキもこのところ観ていないのであった。
 疲労のせいもあって、この野守もまつろわぬ民の一形態なのだろうかなどとぼんやり考えながら観る。囃子はあまりいただけなかった。

 2日連続は正直疲れた。そして長袖を着ていても震えるくらい寒い冷房には参った。


こぎつね丸