観能雑感

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観能雑感
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2004年05月22日(土)

セルリアンタワー能楽堂3周年特別公演

セルリアンタワー能楽堂3周年特別公演

　この曲、このシテ、この小書。そして狂言は山本家。行くしかない。

　セルリアンタワー能楽堂に行くのは今回初めて。ビルに入ってからふと前を見ると亀井忠雄師が歩いていた。広忠師の後見につかれるのだろうなぁと思いながら地下2階の能楽堂へ。座席数185という小規模の見所。ただし2部屋からなる座敷からも観られるようになっている。さらに併設された料亭では食事を楽しみながら舞台を観るというコースもあるそうだが、個人的にはどっちつかずになりそうで興味なし。狭いゆえ座席の段差なし（正面席のみ後列2列に意味をなさいような程度の段差あり）。中正面後列正面席よりに着席。
段差がないゆえ前列の方が長身だったらどうしようかと危惧していたが、幸いにして子供さんだった。

解説　　水上　優
　解説というのは受け手をどう想定するかによって変ってくるものだが、そのあたりが若干中途半端な感あり。難しいところなのだろうが。

狂言　『察化』（大蔵流）
シテ　山本　東次郎
アド　山本　則俊、山本　則秀

　連歌の会を催すことになった主の命を受け、宗匠になってもらうために都に主の伯父を迎えに行く太郎冠者。しかし顔を知らないので道々呼ばわりながら歩いているところをすっぱに騙されそのまま帰宅。人違いと知りながらもてなし、穏便に済まそうとする主に従うが、何やら妙な具合に。見かねた主に自分の言う通りにしろと言われ実行するが、事態はさらに混乱して行く。今回初見。
　東次郎師が都に着いて感嘆の声を上げながら辺りを見回すと、大路を行く人々のざわめきが聞こえてくるようだった。則俊師の察化、カモを物色しているところも、主の家に着き正体がばれても、どこまでもしれっとしていて太郎冠者と好対照。奇妙な話を得々としている太郎冠者の様子が可笑しい。主から自分の言う通りにしろと命じられて以降は『口真似』と同様の展開。どこまでも朴訥に主の命に従う態の太郎冠者と、それによって引き起こされる事態の落差についつい笑いを誘われる。最後には察化が気の毒になってくるほど。もう止めて～と思いつつ、笑った。
　狂言で固有名詞が出てくるのは珍しい。

能　『安宅』延年之舞　貝付貝立（宝生流）
シテ　髙橋　章
子方　佐野　幹
ツレ　大友　順、波吉　雅之、朝倉　俊樹、佐野　由於、武田　孝史、今井　泰行、金井　雄資、野月　聡
ワキ　宝生　閑
オモアイ　山本　則直
アドアイ　山本　則重
笛　一噲　隆之（噌）　小鼓　大倉　源次郎（大）　大鼓　亀井　広忠（葛）
地頭　大坪　喜美雄

　同山にこれだけ中堅役者が加わっていると、舞台が引き締まる。観世にはない重厚さは宝生流ならでは。シテ一向、登場した瞬間から緊迫感を放ち、落ちて行く者達の身の危うさを否が応にも印象づける。髙橋師の弁慶、冷静沈着で思慮深く、感情をあらわにすることはないが、その実情感豊かであった。いきり立つ同山を背後に押さえ富樫と対峙する場面は、火花を散らすというよりは、水面下で刃を交わしているがごときの緊張感。閑師、勧進帳を読む弁慶にいかにも不審げに近づく様子や、従者に義経がいると告げられた時に見せた、手中に落ちた獲物に止めを刺そうとばかり、冷たい情熱に突き動かされる様が見事。シテとワキが拮抗しないとこの曲は成立しない。
　最も印象に残ったのは、何とか富樫の追及を逃れた後弁慶が義経の前に跪き、急場とは言え主を打擲したことを詫びる場面。特に作った様子は何もないのにもかかわらず、主君に対して申し訳ないという気持ちと、また主君をそんな目に遭わせてしまった自分に対するやるせなさが伝わってきて、苦しくなるくらいだった。子方の幹君も好演。兄に追われる身を嘆く様は、立派に曲中のひとつの山場となった。
　追い付いた富樫が酒を振舞い場面は一転。酒宴となる。今回小書付のため舞に入る前に特殊な謡が挿入。舞の型も常と異なる。ドラマ性よりも延年という祝言性を重視した演出に見えた。これまで観たどの男舞よりも重い位で始まり、ゆっくりと舞台を一巡するシテの動作は呪を施しているようにも見える。後半はそれまで蓄積したエネルギーを一気に開放するかのごとく、テンポが速まる。同じ延年でも観世流のそれとは全く異なり荘重かつ清冽。終わるのが惜しくなる。
　弁慶の富樫に対する礼はあくまでも丁寧に、しかし素早く身を翻し鮮やかに去って行き、終曲。
　髙橋師の謡の良さを堪能できた時間だった。宝生流の謡を満喫するにはこれくらいの規模の能楽堂が適しているのかもしれない。
　地謡は中堅と若手で構成、健闘した。ただ今回に限ったことではないが、それよりも上の世代の地謡とは明らかに雰囲気が異なるように感じる。事の是非は問えないが。

　収容人員が少ないためかなり割高の料金だったが、その価値は十分すぎるほどあった。満足。

　演能中のおしゃべりはとにかく迷惑なのでやめてもらいたい。
　

こぎつね丸