観能雑感
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2004年01月11日(日) 宝生流月並能

宝生流月並能 宝生能楽堂 PM1:00〜

どこの初会を観に行くかは毎年思案のしどころ。今年は銕仙会にするつもりだったが今井泰男師のシテがあるということで宝生会に決定。
持病がらみで非常に体調が悪く、当日は行かないつもりだったが痛みがやや落着いたこと、それでも気分が悪くて良く眠れないこと、新年早々チケットを無駄にするのは嫌だったこと、何か寿ぎが欲しかったことなどから結局出かけることに。それでもギリギリまで躊躇した。痛みが最も酷い時ならばまず無理であったし、会場が自宅から一番近く、全席指定だったのが幸いした。これが目黒や松濤だったら最初から諦めていたであろう。
見所は補助席も出て満席状態。月並能でここまで人出があるのを見たのは初めて。席は中正面の2列目。最前列の両側にも補助席が置いてあり、舞台に向かって右側の席に座った方がどんどん前にずれていって視界を塞がれる事おびただしい。この補助席の配置は無理があったと思う。この方、お連れさんやお知り合いの方々から再三空いている席があるからと言われても動かず、最後の一番でやっと移動。ご自分の席で観るのは当然の権利なのでとやかく言う筋合いではないのだが、あんなに前にずれなくても良いのではないか。
集中力に欠けた状態での観賞だったが、行けただけでも良しとせねばならない。時間も随分経ってしまって簡単な記述ではあるがないよりましであろう。

『翁』
シテ 金森 秀祥
面箱 三宅 近成
三番叟 三宅 右矩
千歳 澤田 宏司
能 『弓八幡』
シテ 中村 孝太郎
シテツレ 水上 優
ワキ 殿田 謙吉
ワキツレ 則久 英志、御厨 誠吾(番組に記載なし)
アイ 河路 雅義
笛 寺井 宏明(森) 小鼓 大倉 源次郎、古賀 裕己、鵜澤 洋太郎(大) 大鼓 亀井 実(葛) 太鼓 金春 國和(春)
地頭 佐野 萌

翁付き脇能が観られるのはこの宝生会と式能くらいであろうか。忙しない世の中、こういう時間の流れはありがたいもの。
面箱の近成師は初役なのだろうか。随分緊張しているようで、捧げ持つ箱をひたすら凝視。爽やかさが感じられず残念。金森師、荘重な雰囲気はあるのだが、どこか生々しく人を超えた存在にはなり得なかった。この生々しさは澤田師にも共通。三番叟の右矩師、初役かどうかは不明。懸命さは買うが重心が定まらず踏む芸とは程遠い。人と大地の結び付きが弱まってしまった現在、古典芸能の中にせめてその残滓を見たいというのは観客の我侭か。
源次郎師が頭取の『翁』は実は初めて。最高礼装の男前はやはり良いものである。前から2列目とこれまでで最も舞台近くで観たせいか、頭取が調子を合わせるために発すると思われる掛け声が聞こえてきた。これが観客の耳に届くことの是非はどうなのだろうか。
どことなく物足りなさの残るまま終了。
続く『弓八幡』、詞章を読んでもどうにも掴み難い内容。脇能は好きなのだがあまり楽しめなかった。神舞、颯爽としたところがなくて残念。宏明師の笛、時に唱歌に濁点がついて聞こえた。父上程ではないが。この親子の中では義明師がもっとも良いと私には感じられる。

狂言 『末広かり』(和泉流)
シテ 三宅 右近
アド 高澤 祐介、河路 雅義

新年にお決まりの曲。体調のせいかあまり記憶に残っておらず。囃子方は翁からこの曲まで出ずっぱりで大変だっただろう。

能 『羽衣』盤渉
シテ 今井 泰男
ワキ 森 常好
ワキツレ 舘田 善博、森 常太郎(番組に記載なし)
笛 藤田 大五郎(噌) 小鼓 曽和 正博(幸) 大鼓 柿原 光博(高) 太鼓 観世 元伯(観)
地頭 三川 泉
本日のメイン。やはり体調の悪さが災いして半覚醒状態に終始してしまったがシテは天女の高貴さを体現していて美しかった。特筆すべきは大五郎師の笛。序ノ舞は正に天上の音楽。神々しかった。

能 『鞍馬天狗』
シテ 田崎 隆三
牛若 辰巳 和磨
花見 近藤 颯一郎、佐野 幹、前田 尚孝
ワキ 高井 松男
アイ 高澤 祐介、三宅 近成
笛 藤田 朝太郎(噌) 小鼓 観世 豊純(観) 大鼓 大倉 三忠(大) 太鼓 大江 照夫(春)
地頭 近藤 乾之助

前シテは直面だが田崎師、目を瞑りがちでどうにもいただけない。謡も所作ももう少し何とかならないかと思ってしまった。牛若の和磨君は凛々しくも可愛らしく大変結構。去ろうとする天狗の袖にとりすがるところなど胸に迫ってきた。

何はともあれ全曲観られて良かった。というよりも帰ろうにも動くのが面倒で座り続けていたという方が正確かもしれない。こんな事が出来たのも翌日が祝日だったから。
しかし今回の痛さには参った。痛みがつき物の持病だが、過去に経験したもうあんな目には遭いたくないという痛みをさらに上回っていた。そして腹痛を抱えながら真冬の大腸洗浄液1.8リットル一気飲みは辛かった(そしてその後はさらに辛い状態が待っているのだ)。

何にせよ、今年も出来る範囲で一番でも多く、大事に観たい。


こぎつね丸