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■ 久しぶりに文章投下
以前に書いた奇妙な家族設定の自己満足SSの過去話。 ケータイで書いたり深夜に付け足したり消したりしたのでいつも以上にまとまりがない。 語彙の乏しさがかなしいです。
「妹なんか、いらない。」 憎悪のこもった尋人の完全な拒絶の言葉に、真由は固まった。 再婚相手の連れ子というけして望まれていない自分の立場はわきまえている。 どんな形であれ、真由の母親が尋人たちの家庭を壊してしまったことは事実だ。恨まれていることもわかっていたし、はじめから簡単に受け入れられるとは思っていない。 だが、はじめて顔を合わせたような人に開口一番、きっぱりと拒絶の言葉を浴びせられるのは亜実の幼い心にはやはりこたえた。 バクバクと音を立てる心臓をなだめようと、小さく息を吐く。 そのまま年齢相応の幼い声でしゃくり上げてしまえば、もしかしたらことはもっと簡単に収まったのかもしれない。 だが、残念なことにここで泣き出すほど真由は弱くはなかった。 新しい家族ができると浮かれていたわけではない。帰る家が変わるだけだ。今までのように、誰にも頼らずひとりで生きていくことに変わりはない。 自分の意思を確認する。揺らいだ心を立て直す。 今までも、これからも、一人だ。一人で生きていく。 他人にかまっている余裕などない。 「妹にして欲しいだなんて、ひとことも言ってません」 喉から発せられる硬質な声音。 真由は自分の心が静かに閉じていく音を聞いた気がした。
もちろん尋人の真由に対する第一印象は最悪だった。 真由の母親は、尋人にとって何が起きようと許せない最低の女。 その最低の娘と仲良くする気なんかはじめからなかったのだが、真由の生意気で反抗的な発言はさらに尋人を苛立たせた。 仲良くなるどころか、二人の溝はますます深まっていく。 弟二人がぎこちなくとも真由と家族的な関係を築き始めているにもかかわらず、尋人はことあるごとに真由を攻撃し、その存在を無視した。 真由が反抗的な発言をしたのは初めだけで、それからは尋人の一方的な悪意にただ黙って耐えているだけだった。さすがに見ていられなくなった隼人が尋人をとがめる。 「ヒロさんは、自分が誰と本気でケンカしてるか分かってるの?」 呆れと哀れみを含んだような弟の声音の意味を理解できず、尋人は真由に対して何度も繰り返した言葉を当たり前のように答えた。 「許せないあばずれ女の娘だ。あんなやつと家族になるなんて誰が認めるか」 隼人の瞳に映る哀れみの色が濃くなる。 「アノヒトの娘である前に、ヒロさんより一回り小さな女の子だよ」 溜息混じりに呟く弟の言葉の真意を測れずに、尋人の苛立ちがさらにつのった。 「お前は相手が女なら誰にだって肩を持つんだな」 「本当はそんなこと思ってないくせに。変な意地はるのやめなよ。まぁ、ヒロさんらしいっていえばらしいけどね」
ある日、尋人は真由に対して「お前の顔なんか見たくない」と吐いてしばらく自室に閉じこもった。 それは客観的に見れば明らかに受験ストレスからくる八つ当たりなのだが、本人はまったく気がついていない。閉じこもると言っても、はじめから常に勉強机に向かっているのが正しい姿であって、言った本人も数時間後には自分の言動などすっかり忘れて難解な数式の解読に没頭していた。 その集中を、コンコンという控えめなノックの音が邪魔をした。 せっかく気分が乗っていたところを邪魔されて、ただでさえムカっときているのに、ドアから顔を覗かせた真由の顔に苛立ちはさらに膨れ上がる。 「ヒロトさん……あの」 「なんだ。邪魔だ。出て行けよ。」 冷たい言葉が容赦なく飛ぶ。 それでも真由は帰ろうとせず、後ろ手に扉を閉めてゆっくりと尋人のほうに歩みを進める。 「出てけって言ってるだろ!!」 怒鳴りつけたところで、尋人と真由の視線が合う。 尋人が、涙を必死にこらえる真由の表情にギョッとしたのとほぼ同時に真由はそのまま堰を切ったようにワッと泣き出した。ずっと溜め込んできた感情が一気に爆発する。 その泣き方は年相応の幼いものだったが、普段、悪意もさらりと受け流す大人びた真由の姿しか見てこなかった尋人は相当のショックを受けた。 座り込んで泣きじゃくる真由の前で呆然と立ち尽くす。以前の弟の言葉がふいによみがえった。 ――ヒロさんは、自分が誰と本気でケンカしてるか分かってるの? その言葉に自分は何と答えたか。 少なくとも、こんなに弱く脆い子供相手にケンカをしているとは夢にも思っていなかった。
ひとしきり泣いても涙はまだ止まらない。感情の爆発の中で真由の頭はもう何がなんだか分からない状態だったが、ひどい嗚咽を堪えながら必死に言葉を絞り出した。 「私の、お兄ちゃんに、なって……」
尋人は目の前で肩を震わせながらしゃがみこむ、小さな背中を見下ろす。 背は小さいくせに態度はでかい、生意気な女。 この少女の親のせいで、尋人の母は細い肩にいらぬ苦労を背負い込んだ。 許せない女。その娘。可愛げのない、邪魔なだけの存在。 「……おねがい…」 ところがその生意気な少女は目の前で、顔を真っ赤にして泣きじゃくっている。 尋人が嫌っている、いつも挑戦的に睨んでくる瞳は今はどこにもなかった。 派手好きな母親に似た綺麗な顔も、涙で濡れてぐしゃぐしゃだ。 意地も矜持も捨てて縋り寄る。自分を守るもの全てを取り払ってありのままを晒した勇気と、切実さに、尋人の中にあった大人気ない意地も徐々に溶かされていく。
ぽんっ。
俯く真由の頭に右手を軽くのせる。慣れない動きで少し力が入りすぎてしまう。 ぎくしゃくと硬い手の動きはお世辞にも優しいとは言いがたかった。男兄弟しかいなかった尋人は、こんな時女の子をどう慰めてやればいいのか見当も付かない。 それでも尋人は、自分が今できる限りの一番の優しさを込めて真由の頭を撫でた。 肥大した意地の残りかすが疼いたが、無視する。目の前で、頼れるものもなく泣き縋る少女の姿を見ると、全ての思考が止まった。息をするように自然に言葉が零れ落ちる。 「ごめんな」 真由が顔を上げる。信じられないというように目を大きく見開いていたが、尋人も同じ気持ちだった。今までこんなに優しい声を出したこともなければ、誰かに面と向かって「ごめん」と謝ったのもはじめてだった。自分自身に驚く。だが、その言葉をずっと言いたかったのだと妙に納得した気分になった。邪魔な意地を取り払えば、自分が悪いのだということはわかっていたのだ。 言葉の意味がうまく伝わらなかったのだろう。真由の目が不安そうに揺れる。今度はしっかりと目を見て言葉を口にした。
「いままで、ごめんな」
2006年05月18日(木)
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