青い物語
由良



 夢の風景(似非小説風味)

夕焼けよりは闇に近い、藍色の世界の中で
子供みたいにアスレチックに登りながら、私はふと悲しくなった。
アスレチックの頂上をのぼりきって、一番てっぺんから周りを見渡す。

「もう私たちはどこにも行けなくなっちゃったんだなぁ」

かすれた呟きは、ぬるい空気に吸い込まれたようにすぐに響きを失った。
空にはクレヨンで描いたみたいな黄色い星が散らばっていた。
足元を見下ろすと、アスレチックの途中でダイ君が必死にロープと格闘してるのが見えた。その横で、ヒロ君が階段を悠々と登りながら要領の悪いダイ君をひやかしてる。
二人が同時にてっぺんを見上げて、少し照れた顔で私に笑いかけた。
ドキッとした。遠くからすごい勢いで風が吹きぬけたみたいに寒気がした。
私は曖昧な笑顔でうなづいて、まだ少し夕焼け色の残ってる空の端へと目を逸らす。

(気がつかなければ良かったのに。
そうすればずっと、しあわせでいられたのに)

私とダイ君とヒロ君と。
三人で作り上げた小さな世界はびっくりするほど居心地が良かった。
はじめて手にするしあわせのたぐいで、たぶんダイ君もヒロ君もいまだかつて一度も失った事のないような、愛も安心もすべてがぎゅうぎゅうに詰まった空間。
きっと二人とも、この世界が終わってしまう日のことなんて想像した事もない。
必要なもの全ては、目の前に充分すぎるほど溢れていて。
目の前の世界を手にとって確かめる事に夢中で、その先に何が待っているか何て、きっと考える事もしないんだ。
何で私だけ
気がついてしまったのかな。
きっと、どこかで一度
こんな世界をなくしたからかな。
たくさんの“好き”に溢れたこの世界で、お互いの事を大好きな私たちが、いつか気が付き始める。
自分たちの気持ちが、始めに持ってた真っ白であったかな気持ちとは違ってきている事に。
強くて激しくて、与えるだけじゃ物足りなくて、根こそぎ自分のものにしたいと欲する凶暴な思い。
何も失った事のない、誰も傷つけた事のないダイ君とヒロ君にまだそんな凶暴な感情は芽生えていない。
でも、私は気付いてしまった。
私を見つめる二人の目に、以前にはなかったギラギラとたぎるようなあつい熱がこもっているのを。
もう私はこれ以上
二人の事を今までのように好きになる事も
三人で今までのように一緒に遊ぶ事もできない。
二度と引き戻せない何かが、廻り始めてしまった。

「もう、さよならしなきゃね」

誰にも聞こえないように、ひとり、ひっそりと舌の上で転がした。


どうして、何もかも終わってしまうんだろう。
どうして私たち
こんなに大好きな自分たちの世界すら、守れないんだろう。
どうして、そのままの姿で居られないんだろう。
失い始めたとき、やっと気がつくんだな。
“私たちは、全てを持っていたんだ”って。
そして、失くしたものの埋め合わせを求めて彷徨うのかな。
そうやって、歩き出していくしかないのかな。

「ハツミ、どうしたの?」
「ハツミちゃん、泣いてるの?」

いつか満たされるときがくるのかな。
いつか忘れちゃう日が来るのかな。
こんなに大好きな空気を、こんなに大好きな人たちを。

「なんでもない、なんでもないよ」

ようやく頂上まで登り詰めた二人が、てっぺんで一人、しくしくと泣いている私を見つけて慌てて駆け寄った。
一緒にいたいよ、ずっと一緒にいたいよ。
でも私たちって、ほんの短い時間を
偶然同じ場所で過ごしてるだけなんだよ。
流れていく身体をとどめておくことなんて、できないんだよ。

「ただ、今だけでも傍にいさせて」

闇に包まれて何も見えなくなるまで。
それまではせめて、ずっと傍にいさせてね。




_________________________

いつぞやに見た昼寝の夢の風景。たしかテスト週間。
切ない夢だったー
三人の子供が作り上げた小さな世界は
とってもしあわせな空気でした。

2005年03月10日(木)
初日 最新 目次 HOME