青い物語
由良



 destination

「なぁ、今度はいったいどこまで
俺はお前に付合わされなきゃならないんだ?」

「どこまでいったって帰しやしないわよ。
いつもそうじゃない。
私の気がすむまで、もしくはアンタの気がすむまで。」

振りかえりもせずにアッサリ言ってのける少女の傲慢な態度に、盛大に溜息を付きたいのをこらえて男はもう一度尋ねた。

「せめて今、お前がどこに向かって歩いているのか教えろ。
目的地はどこなんだ。」

「そんなこと知ってどうするのよ。」

一人で突き進む少女と肩を並べると、彼女はようやくコチラの方に顔を向けた。
その蒼い瞳は、好意的という言葉とは程遠い
冷淡で興醒めしたような目付きであったが。

「ただの気休めだ。
アテもなくついていくよりは、せめて目的地がわかっていた方が気が楽だろ。」

「ふぅん………。」

「………。」

特に興味もなさそうにそう小さく呟いただけで、少女は口を閉ざした。
瞳は途方も無い遠方を眺めているように空ろで。
そのくせ、歩調だけは相変わらずの早足。

男は、
人の話を聞いているのかっ!!
と怒鳴り散らしたい衝動に駆られたが、長年培ってきた忍耐力でそれも堪えた。
男は少女に怒ることができない。
少女が恐いということではない。
何を考えているのかわからないという意味では恐ろしくもあるが、男は少女の尻にしかれているわけでも、その戦闘能力を畏怖しているわけでもない。
もちろん、ひとまわりも年下の少女の行動など全て許せてしまう、というわけでもない。
世間を知らぬ長年の放浪のせいか、年の割に男の気性は子供じみていた。
大人と子供と言えるほど、この二人旅の主導権を握れているわけでもなく
かといって同年代として扱うには、見た目も考え方も二人には明らかに誤魔化しようの無い年齢の差が感ぜられた。
遠くで見守ることも、同じ物を一緒に見つめることもできない。
その微妙な距離で、男は今までずっとこの少女の後をついてきた。
男は少女に怒ることができない。
ただたんに、現在地であるこの微妙な距離からの怒り方がわからないだけなのかもしれない。


「……どうした?」

何かにせかされるように急ぎ足で歩いてきた少女の足が止まった。
表情を少しも変えないまま、少女はすいと右腕を大地と平行に上げる。

「あそこ。」

「何が。」

「目的地。」

よくみれば、少女の右手は人差し指だけがどこか一点を真っ直ぐに指差し、他の指は柔らかく曲げられていた。

「………どこだ。」

問うてみても、少女は口を堅く閉ざし、男の質問に答える気などさらさらないようだった。
男は仕方なく、彼女の指差す場所を必死に探ろうとする。

「……あの、砂山の上か?」

少女はふいに右手をさげ、男を見、ほんの少し口の端を吊り上げただけの皮肉げな笑みを浮かべた。

「アンタがそう思うなら、そこ。」

そう言ってまた先ほどと同じスピードで歩き始める。
男はいよいよ溜息がつきたくなってきた。

「随分いい加減なんだな。」

「目的地なんて、ただの目印だもの。」

「………と、いうと?」

黙殺されると思った呟きに少女が反応を返したことに内心で驚きつつも、男はさりげなく少女に先をうながす。
その誘いにあっさりと乗って、少女が再び語り出したことに男はまた驚いた。

「あの砂山を登れば、ちょっとは気分がスカッとするかもしれない。
私はそこへ行こうと思って歩いてきたんだし、自分で『目的地』って目印をつけたその地に無事に到達できたわけだから。」

「……」

「でも、砂山に登れば、今は見えない向こう側の景色が見える。
新しい景色が。
そうしたら、きっと私は、もっと向こうの別の場所に『目的地』って目印をつけて、また目指すでしょう。
アンタも、目的地はどこなんだって言って私に無理矢理目的地を作らせるでしょう。」

砂山の頂上付近。
最後のきつい斜面を、少女は一気に駆け上がった。

「そんなの、意味無いじゃない。」

「意味無いか?」

「無いよ。だって、何も無い。」

少女は砂山のてっぺんに座り込んで、地面をぽんぽんっと軽く叩いた。

「目的地には、何も無い。私だけに見える目印があるだけ。
その目印も、新しい目的地ができたら消えちゃう。」

「………。」

「目的地なんて、あらかじめ決める場所じゃないよ。
あらかじめ決めるのは、そりゃ目的地じゃなくてただの目印、目安。
その目印をいくつも超えて行って、いつか辿り着く場所が、本当の目的地。」

「お前は、本当の目的地ってのを知ってるのか。」

「知ってるよ。」

「何だ。」

少女はやおら立ちあがって、服についた砂を払った。
男は黙って少女が衣服についた砂を全部払うのを見届ける。

「私の運命が、変わる場所。」

「それが、本当の目的地?」

頷くかわりに、少女は男の目をしっかりと見据えて微笑んだ。

「destination...
辿り着くまで、アンタも一緒についてきてよ。いいでしょ?」











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英単語の「目的地」と「運命」が似てるなぁと勘違ったのがすべてのはじまり。
最初はもっと短かったのだが例のフリーズで消えてしまった原案……泣
セリフだけじゃない構成にしたら無駄に長くなりました。
男が少女に怒れない〜の文はカットしても良いかもしれない。
最初はそんな文章なかった。
てか男のそんな設定なんて無かったのに。
瑠璃主とは言えないので一応オリジにしてみた感じ。
無駄に時間かけたなー……(遠い目

2003年11月17日(月)
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