今日は海岸の町へ。 予習通りに切符を買い、予習通りに列車に乗り、 予習通りに到着した。 安心するけど、自分の興奮度はさすがに低い。
海岸は、もうすっかり秋の海。 泳ぐ人も少ない。 太宰だったか、秋の海を「捨てられた海」と書いていたが、 実際の現場に遭遇すると、絶妙な表現だな、これ。
ビン先生は、ここでも強運を発揮。 海から目抜き通りへと戻る道で、なんと現金拾得。 しかも割と高額の紙幣である。 大体、この国で現金が落ちているのに出くわす確率なんて、 南海時代のホークスの優勝ほど低い(=ゼロに近い)。 警察に届けようかという話も、勿論出たのだが、 悲しいかなここの警察は、あんまり誉められたものではない。 外国人が「そこでお金を拾いましたよ」と届けたところで、 その金が彼らの懐に入れられるだけだろう。 そこで、とりあえずとっておきましょうってことにしたコージ苑達って、 不正直で地獄行きかしら。
中央市場は、駅の真ん前にある。 観光ルートにも入っている場所だし、 何より先生が興味を示されたので御案内してみると、 こちらが気づかないうちに、 海岸にだけではなく、そこここに秋が来ていたようだ。 野菜売場では森のキノコが、 魚売場では初物のイクラが並んでいる。 それを見ていたビン先生、食指が動いたらしく、 急遽、本日の夕食を一緒に作ろうという話になった。 上記の「初物」シリーズと、脂ののったサケの薫製を購入。 七味屋氏宅で、手に入れた食材を調理する。
ゆっくり夕食をとった後、 シチリアからやってくる零子嬢を迎えに、 駅前の長距離バスターミナルへ向かう。 しかし、天気のせいか国境での混雑か、 到着予定時刻を大幅に過ぎても、彼女のバスは入ってこない。 夜も遅いし、ということで、先生は一足先にホテルへ戻った。
七味屋氏が先生を送ってくる間、 コージ苑は一人でターミナルを見張っていたのだが、 ふと目に付いた日本人観光客。 割と年輩のご夫婦であるが、とにかく危なっかしい。 手持ちのスーツケースを、いとも気軽にそこらに置いて、 ターミナルの入り口だか何だかを探しに行ってしまうのだ。 しかも、表示を探しているのか視線は常に上を向いた状態で、 ウエストポーチは完全にノーガード。 危ないよう、とはらはらして見ていたのだが、 もしかして彼らの目には、コージ苑こそ鞄を狙う女に見えたかもしれない。 彼らは不審げにこちらを一瞥し、そそくさと立ち去ったのである。 ええ、欧州で見る東洋人もアヤしいかもしれませんが、 現地の人間にも十分気を付けて下さいね・・・
七味屋氏が戻ってきて数十分後、 零子嬢は無事にL国に到着した。 早速、バスの中で遭遇した出来事を語る彼女。
彼女がバスを待っていると、ある女性に話しかけられた。 「日本人ですか?R市に行くのですか?」 わけがわからないまま、彼女がそうだと答えると、 その女性は紙包みを取り出し、 「これをR市で待っている男性に渡してほしい」と言う。 怪しいニオイがぷんぷんである。 変な事件に巻き込まれるのはごめんだわ、と零子嬢が断ると、 「御礼なら出します」と財布を取り出す始末。 遂に零子嬢は折れ、包みを受け取った。
しかし、どうも怖いので、車中で中身を確認すると、 自動車の窓拭き洗剤だった。 怪しい。ますますもって怪しい。 実はこの中身、ヤクなんじゃないかしらと疑いつつ、 零子嬢はバスでの時間を過ごした。
そして到着したR市のターミナル。 バスを降りると、一人の男性が近づいてきた。 「あなたですね、荷物を運んでくれた人は」 びびる零子嬢。 「私は○○石油会社の者です。いやあどうもありがとう」 そして再び「御礼を」と財布を取り出す男性を押しとどめ、 零子嬢は逃げるようにその場を立ち去った。
つまりは彼女、合法だか何だかわからないものの、 何かの運び屋をやらされたというわけだ。
彼女の旅は、スリルと共に始まったようだ。 お疲れさまである。
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