出勤途中に、一件の下着屋さんがある。 ショーウィンドーの中が、気づけば春夏の新しいディスプレイに変わっていた。 その中の一つが、コージ苑の目を釘付けにした。
それはキャミソールとショーツのセット。 色は純白。 清楚といえば清楚なのだが、素材が綿というところに微妙なものを感じる。 しかし、問題の所在はそこにはない。 キャミとショーツに統一感を出すがごとく、ちょうど体の正面にくるように、 一気に縦書きされた、黒々とした毛筆体の字。 その文句は。
「大唐帝国」
あのさあ…何があるわけ、その言葉の背後に。 かつて大英帝国で「月火水木金土日」と書かれた トイレットペーパー見たことあるけどな。 あれよりアホな商品久しぶりに見たっつの。 しばし理解に苦しんだ(そして遂に納得できなかった)コージ苑であるが、 あるイケナイ考えがふと頭をかすめた。
これはきっと、昨今の漢字ブームにのってデザインされた商品であろう。 東洋人はこういうモンばっかり着てるんだろう、 と奴らは思っているのかもしれない。 (んなわけあるかと思いつつ、不安を拭いきれない処にこの国の恐ろしさがある) ならば、例えばコージ苑が店内に入り、 いとも無邪気な顔をして「まあ素敵」とばかりにこれを買ったとしたら。 そして「あちらではこういうのが流行りで」とはしゃいで見せたとしたら。 さらにそのキャミソールを着て街中を自信たっぷりにうろついたとしたら。 もしかしたらそれは、この町に流行を引き起こす一端となるかもしれない。 何て言ったって「本場の東洋人」が着ているのだ。 「このデザイン、東洋的に見てもイケてますよ」と言っているようなものなのだ。
そしてこの夏、R市にはけったいな漢字デザインの服が大流行り。 (もっとも、単に冷笑されておしまい、という可能性もなきにしもあらず)
…おもしれえ。
しょうもない妄想に浸り、しばしにやけていたコージ苑であるが、 その壮大な計画を実行するにあたり、一つの越えられない壁にぶち当たった。
ごめん、どんなに面白いことになろうとも、その商品だけは買いたくない。 東洋人のプライドにかけて。
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