月のシズク
mamico



 夜の密会

余裕のないいちにちだった。
カイシャを一日空けると、ことごとく内情が変わってしまうことが多い。
今朝パソコンの前に座ってから、ついさっきまで、私はとにかく働き続けた。
そして、吉祥寺に着いたら明日から三連休だったことを思い出す。
どうりで街はほろ酔い気分で明るいわけだ。

どっしりとした重量感のある疲労をしょって、自転車で夜道をかえる。
マンションの前に自転車を止めたとき、いきものの、ちいさな鳴き声を
いっぽ、足を引いて辺りを見回すと、私の足元からちょうど1メートル
くらい離れてシッポが丸くなっていた。

ミィヤァ、と、彼女はまた鳴いた。

私がここに住み始めたときから、この界隈で暮らす猫のひとり。
キジトラの模様だけど、ふさふさの毛とぼんぼんの尻尾を持っている。
だから、わたしは勝手にシッポと呼んでいた。

ひっそりと静まり返った住宅街で、私とシッポはふたり並んで夜空を見上げる。
私が少しでも動くと、彼女はぴくりと同じだけ動く。
だから、私たちはいつも一定の距離をたもっている。
ときどき、こうして夜の親密さを分かち合うのだけれど、私はまだ彼女に
触れたことはない。だけど、彼女は私のことを知っている気がするし、
私も彼女のことを知っている気がする。

ずいぶんと長いこと、夜空をみていた。
そして先に歩き出したのは、彼女のほうだった。
ミャァとちいさく鳴いて、彼女は私に背を向けた。

おやすみ
寒くなったから、気をつけるんだよ、と私は彼女の背中に言う。

ガラスの自動ドアの前に立つと、たちまち中の明るさに目がくらんだ。
しかし、シッポは本当に女の子なのだろうか。
確かめてみたことは、もちろん、まだない。




2001年11月23日(金)
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