月のシズク
mamico

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■ 夜の密会

余裕のないいちにちだった。
カイシャを一日空けると、ことごとく内情が変わってしまうことが多い。
今朝パソコンの前に座ってから、ついさっきまで、私はとにかく働き続けた。
そして、吉祥寺に着いたら明日から三連休だったことを思い出す。
どうりで街はほろ酔い気分で明るいわけだ。

どっしりとした重量感のある疲労をしょって、自転車で夜道をかえる。
マンションの前に自転車を止めたとき、いきものの、ちいさな鳴き声を
いっぽ、足を引いて辺りを見回すと、私の足元からちょうど1メートル
くらい離れてシッポが丸くなっていた。

ミィヤァ、と、彼女はまた鳴いた。

私がここに住み始めたときから、この界隈で暮らす猫のひとり。
キジトラの模様だけど、ふさふさの毛とぼんぼんの尻尾を持っている。
だから、わたしは勝手にシッポと呼んでいた。

ひっそりと静まり返った住宅街で、私とシッポはふたり並んで夜空を見上げる。
私が少しでも動くと、彼女はぴくりと同じだけ動く。
だから、私たちはいつも一定の距離をたもっている。
ときどき、こうして夜の親密さを分かち合うのだけれど、私はまだ彼女に
触れたことはない。だけど、彼女は私のことを知っている気がするし、
私も彼女のことを知っている気がする。

ずいぶんと長いこと、夜空をみていた。
そして先に歩き出したのは、彼女のほうだった。
ミャァとちいさく鳴いて、彼女は私に背を向けた。

おやすみ
寒くなったから、気をつけるんだよ、と私は彼女の背中に言う。

ガラスの自動ドアの前に立つと、たちまち中の明るさに目がくらんだ。
しかし、シッポは本当に女の子なのだろうか。
確かめてみたことは、もちろん、まだない。




2001年11月23日(金)
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