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■ 「消去してもよろしいでしょうか?」
ときどき過去がじゃまになる。 想い出や記憶と呼ばれるものが突然、向こう側からひょうひょうと飛来してきて、 抵抗する間もなく私は過去のある時点に立たされる。もちろん肉体が時空を越え て、という四次元的な意味ではなく、精神だけがその場所に連行される。 なかば暴力的に、私はもう一度、私が体験してきたはずの過去を目撃させられる (使役)
鳥瞰図のように過去を眺めながら、私は思う。 ここで繰り広げられている私の過去はどこにしまわれて、 保存されていたのだろう、と。そして私の存在がこの世界から消滅したとき、 この過去はどうなるのだろう、と。
むかし、ドラマや漫画でやっていた。 歯医者にあるようなリクライニングの椅子に横たわり、頭にパーマネントを かけるときのカプセルみたいものをかぶせられ、「あなたのその過去をそっくり 消して、人生をリセットしてあげましょう」と白衣を着たドクターが言う。 そして、必要のない過去が個人の中から抜き取られる。 その人の生きた証が消去される。
ときどき過去はじゃまになるけれど、それを消したいとは思わない。 過去を持たない人というのは、白日の下で影を持てない者のようにも思える。 だから過去をどこかで喪失した人は、必死に自分の影を探そうとする。 彼らは、存在と無のどちらの領域にも属せない 孤独なエイリアン、 というのは少し言い過ぎだろうか。
2001年10月30日(火)
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