探偵さんの日常
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みなさまに好評なのでわれらがBOSSのスパイシリーズを再び探偵ファイルより抜粋です。
そんなに遠くない過去に、こんな話があった。渡辺美里の唄がよくかかっていたのを思い出す−。
新宿の雑居ビルを振り返る。この日は部下の一人立ち記念、ということで、私は些細な祝い金とワインを置いてビルを後にしたところだった。
私が一人立ちしたときと同じような雑居ビルで、部下の・・・いや、元部下である堺がどこまでやれるのか、見守るつもりであった。見守る、といっても探偵としての腕は一流である堺のこと、失敗することはないだろう。
一人の子供を社会に出す−子供がいない私だが、親が、自分の子供が独立した時に感じる想いと共通するような、そんな感慨にふけった一日だった。
夜のとばりが降りて、コンクリートジャングルの中へも月明かりが届く時間になっていた。
西新宿のはずれから、足は自然と歌舞伎町方面へ向かう。小滝橋通りを渡って、新宿の大ガードをくぐる。歌舞伎町の行きつけだったバーへ向かうが、そこは風俗店に変わっていた。このようなことは歌舞伎町では、なにも珍しいことではない。スナックだと思っていたのが、翌月に居抜き状態でボッタクリバーに変わっていることも珍しくはない。
行きつけをなくした私は、「ジェスパ」というバーに入った。今で言うなら、44人放火死傷事件のあったビルの向かいあたりだ。
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話がそれるが、あの事件は事件直後から、 「トラブルによる放火」とその筋では話題になっていた。警察は掴めていないようだが、あの事件は複雑な糸が絡み合い、ある外国人によって実行された可能性が非常に高い事件である。警察よりも頼りになる男が言っているからまず間違いはない。歌舞伎町のドンのところには警察はたどりつけていなかったようだが−。
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チーズをつまみながらマティーニを傾け、ほろ酔い気分になった私は大久保方面へと足を運んだ。大久保は、かつて、私の彼女・・・当時は本気で付き合っており、私が結婚まで考えたある女性との思い出の眠る地だった。 当時、ある店に1ヶ月程張り込んでいた私と、そこで働く彼女が仲良くなるまでにさほど時間はかからなかった。確か初めての夜は、私の家に彼女が手料理を作りに来てくれた時だった。
思い出にふける私の脳裏に、過去の幻影が浮かんでは消えを繰り返す。
1時間ほど、フラフラしていただろうか。やがて私はタクシーに乗って事務所へ帰った。 事務所へ着くと、伝言メモが私をまっていた。伝言の主は、警視庁の刑事である田所警部補。至急連絡を、ということで電話をかける。
「もしもし。お電話いただいたようで。」
「遅いぞ。今すぐ来い!いや、今から行くから車を出せ。理由は後だ。」
刑事というのはかくも強引な。。。と思ったが、世の中に巣くうタカリ屋の悪徳刑事と違い、田所さんはそんな人ではない。よほどの緊急事態だろうと思い、駐車場から車を出して待つ。
うるさいサイレン音が近づいてくる。この辺で事件でもあったのか、と呑気に構えていると、そのサイレンの主は私の車の後ろで止まり、田所警部補が降りてきた。サイレンはまたけたたましく鳴りながら六本木通りを走り去って行く。
「ロシアルートの麻薬がらみで、おたくの名前が出てきた。変なことになる前に先に言っておこうと思ってな」 口早にまくし立てて車に乗るが早いか、資料をバサバサ出して私に見せる。その中には、かつて仕事をしたことのあるスパイの名前もあった。
「こいつがおたくの名前を騙っていたようなんだ。防犯や捜4はおたくの事を知らないから、まずガラを押さえに来るだろう。その前に外事で押さえさせてもらおうかというわけさ。事情聴取という名で捜査もできるしな。」
助けてくれたということなのだろうが、本当のところは、これまでにさまざまな秘密を知りながらスパイとして生きてきた私を探られると、外事方面としても面倒だ、というところであろう。
「これからしばらく、同行してもらうから」
有無を言わさないその姿勢に私は、
「はいはい、わかりました」
とおどけて答え返した。
田所警部補はそんな私を無視して、 「極秘だが、某所で死体があがった。現場を見に行こう」
と言って車に乗り込んだ。
さらに私に向って,港区の有栖川公園に向うように指示し,どこかへ電話をかけはじめた。 このあとしばらく疲労と,ストレスの日々が続くのだが・・・・・
つづく。
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