たまの日々

2002年11月25日(月) いきどおり

月曜の朝。
灰色の空。
細かい雨。
憂鬱になるには出来過ぎなシチュエーション。
ぬくったい夢を切り裂くような勢いで、
下り坂を駐輪場へ急いだ。

なのに。

私の自転車はサドルがなかった。

びっくりした。

少し探したが見つからない。
とりあえず会社に行こう。
小走りで向かった。
そわそわと仕事した。
そそくさと帰った。
傘を忘れたことに気付いた。
雨はどんどん強くなった。
かまわず駐輪場の周りを探した。
近くの家の植え込みの中も、
他の自転車のかごの中も、
少し離れた公園の砂場も。
すっかり日は沈んで埒があかない。

気付いたら、
情けないほど濡れ鼠。

そのまま坂を登って駅に行った。
なんとなく、
駅前の交番に入った。
期待なんかしてなかった。

というのは強がりだ。
なんとか助けてほしかった。
自転車のサドルを見つけてほしい、とか、
犯人を捕まえてほしい、とか、
そんな風にしてほしかった訳じゃない。
ただ、助けてほしかった。

高架下の駐輪場。
いつ自転車盗まれたってしかたなかった。
そう思ってみたりもするけれど、
私はなんにも悪いことしてない。

自転車がほしかった訳ですらなかった。
誰かが困るとか、悲しむとか考えもしなかっただろう。
なんてことない気持ちで、
私のたいせつにしているものをぽいと取り上げるんだ。
まただ。
だれだかわからないこいつも。
誰から見ても、たいしたことないものかもしれないけど、
わたしのだいすきなもの。
少しずつ少しずつ、あっためていって、
なのになんてことない気持ちでぽいって、
捨てられちゃうんだ。
そして私は、
あきらめることしかできないんだ。
しょうがないって、
あきらめるいことしかできないんだ。

あきらめるなんてやだ。

やだ。

サドルのない、私の自転車。

ううん。
正確には、
私の、自転車だったもの。
今は乗ることもできない。
私の、自転車だったもの。



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