ぴんよろ日記
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2002年01月31日(木) 彼はいま、どこの空の下。

昨日、コピーするものがあってコンビニに寄った。
一軒目のコンビニにはコピー機が無くて、
「コピー機のないコンビニもあるんだ」と思いながら、別のコンビニへ歩く。

30枚くらいあったので、次々とページをめくってコピー機にかける。
絵が飾ってある。
オードリーヘップバーンの絵。鉛筆画。
サインはない。
でも見覚えはある。

彼の絵に違いない。
このコンビニの、交差点を挟んでちょうど対角線上にある、歩道橋の下。
そこに住んでいた、彼の絵だ。
最近いなくなってしまった、彼の絵だ。

小さいころから、彼はいた。
いろんな噂が飛び交っていた。
戦争に行って帰ってきてみたら、自分は死んだことになっていたので、
それ以来、空を屋根に暮らし始めた、という話もあった。

段ボールを積んだリヤカーには、
古い映画のスターを中心に、細かいタッチの鉛筆画が飾られていた。
世の中への批評めいた言葉をレタリングしていたことも、しばしば。
ジェームス・ディーンの絵を、若いお兄ちゃんが買っていたのも見たことある。
でも、絵の輪郭だけは、なんか写真をなぞりながら別の紙に描くっていう、
アイデア商品みたいなので描いてるのも見たことある。
お正月には、段ボールの家を、新しい段ボールにしていた。
読んでたのは、だいたいサスペンス小説。

でも最近、いなくなっていた。

その彼の絵が、目の前にある。

ひょっとしたらこの店は「家」の近くだから、
段ボールなりなんなり、お世話になっていたのだろうか。
そして何らかの理由で「家」を離れるにあたって、この絵を?

蛍光ペンをレジに出しながら、お兄ちゃんに聞いてみた。
「あの絵は、あそこにいたおじさんの、ですよね」
「あぁ、そうですね」
…やっぱり。じゃぁ、行方も知ってるかも。…
「あの人、最近いなくなりましたよね?」
「そうっすか?」

彼は、どこへ行ったのだろう。
「家」だったそこを見に行くと、
サンダルと、いくらかの紙があるだけだった。


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