このような物言いも失礼かとは思うのですが、女をモノにしようと企む男にも、幾つかのグレードというものがあります。レベルと称しても間違いではないでしょうけれど、そんななかでも最低レベルに属する輩の常套手段が、最も身近な女を批難することです。 初対面もしくは知り合って間もない男の口から、妻の悪口をきかされた経験をお持ちの方は少なくないでしょう。確認できないのをよいことに、その言葉たるや創作だか真実だかわからぬほどに展開します。男に少なからず好意を抱く女なら、そんな言葉につい心をなびかせてしまう場合もあるかと思います。つまらぬ男も男なら、それを信じる女も女ということです。 男が妻の悪口をいった場合、多くは嘘であると思ってください。「だって本当かもしれないじゃない」と反論されるかもしれませんけど、それが真実だとしたら、そんな身内の話を露呈する人格にこそ問題があると解釈すべきでしょう。いずれあなたとお近づきになった暁には、何処とも知らぬ別の世界で、今度はあなたの悪口が飛び出すのは必定。最低レベルの男に迎合すれば、あなたも最低レベルの女に成り下がりますよ。 妻の悪口をいう背景には、幾つかの目論みがあるかと思います。ひとつめは、「自分があたかもツガイを成していないと誤認させること」です。人間の認識というのは厄介なもので、例えば夫婦というものに対しても、「形」「心」「体」と、なぜか三通りの枠組みを用意したがります。形だけの夫婦、心だけ繋がっている夫婦、体だけの夫婦、なんて按配です。 考えてみればおかしな話で、ひとりの男とひとりの女が一緒に道を歩むのが夫婦なのでしょうから、そこにカテゴリー分けできる道理があろうはずもないんです。夫婦は夫婦でしかない。けれどそこに、「枠に収まりたくない」という妙な衝動があるために、人間は幾つかの屁理屈を夫婦という形に採用してしまった。それが、幾つかの分類ということであり、男はそれを盾に女を口説くわけです。「形としては夫婦だけど、心も体もばらばらなんだよ」てな具合にね。 そしてふたつめは、「君のほうが遥かに魅力的だ」と間接的に思わせるためです。極めて下手くそな口説き方ですが、多くの男にはそういう方法論がインプットされていると思ってください。ターゲットに向かって突進することを是とするために、それ以外を排除することが先決となる理屈でしょう。それで図に乗る女も女だとは思いますが……。 みっつめ。書いていてつまらなくなってきたのですが、我慢して読んでください。書いてるほうも辛いんです……。これが背景としては最も姑息だと思える部分ですが、女の同情をひこうとする目論見が男にはあります。「ええー、うっそぉー」などと反応した日には、もう男の天下です。小さな話に尾ひれをつけて、果ては根も葉もない話に発展しないとも限らない状況となるでしょう。 同情が愛情にかわるというのは、誰が決めた不文律かしりませんが、ある程度真実味がある気がします。なぜなら同情という感情には、相手を慮る気持ちが介在するからです。それがいつしか愛情へと変化しても、僕には不思議がないと思えるものです。それだけに、同情を餌に女を釣ろうとする男は卑劣だと思います。 じつは僕も、過去にこの手を使ったことがあります。いやな奴です。もうかなり昔の話になりますし、いまとなっては「時効にして!」と願うしかないわけですが、思い出すだけで自分が情けなく恥ずかしくもなります。つまり、言い訳という話でもないのですが、そんないやな奴であっても、いずれはそこから脱皮することもあるということです。 人間ですから、妻であれ夫であれ、至らない点は多々あるものです。ましてや異なる人格がひとつ屋根で暮らすとなれば、そこには淀みが多かれ少なかれあって然るべきでしょう。ただそれは、自分たちが生み出した淀みに違いなく、自分たちが乗り越えねばならないハードルでしかないんです。間違っても、それを盾に、別の快楽を追い求めてはならないのだといま僕は考えています。 ある意味においては、妻の悪口をいう男というのは、どこかとても物悲しい存在のようにも思えます。あちらで満たされぬものを吐き出したいがために、こちらで甘い水を用意して待っているんです。ところがその甘い水も、純粋な甘さではなく、添加物てんこ盛りの偽物であることを、当の本人が気づかずにいるのですから……やはり哀しい話かもしれません。 同姓に対して連れ合いの悪口をまくしたてるのは、これは少々意味合いが異なりますよね。それは愚痴と俗にいわれるやつでして、まさか同姓を「落とそう」などと思って吐くわけでもないでしょう。僕の周辺には、どういうわけか妻を誉める奴はいても悪口をいう奴はいないのですけど、仮に目の前で妻の悪口を述べる友人がいたら……きっと説教たれるだろうなと思います。まあ、それが嫌だから、誰からも「妻には感謝してるよ」などと口幅ったい文言が飛び出すのかもしれません。 されど、友人の前でつい口に出る言葉ほど、真実を語るものはないですよね。女の前であってもそうあれば、もっと落としやすいのになぁと考えてしまう僕は、まだまだ駄目な夫なのでしょうか。修行が足らないようです。反省。 ---- Information ------------------------------ 【Figure Vol.1-03:into The Origin 公開】
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