| 2003年11月25日(火) |
尊重と無関心 /恋人とのスタンス |
恋は盲目という言葉があります。あばたもえくぼ、恋に落ちると相手のすべてが素晴らしく見えてしまうものかもしれませんね。そんな素敵な恋人と自分との間に、ふたりを繋ぐ一本の線が見えてくるのも恋というものでしょう。ところがそれはときに、いけない盲目へと繋がってゆくんです。 恋をすると盲目になるのは、心の中に理性をもしのぐ欲求が芽生えるからに他なりません。それは自己をより深くしって欲しいと望み、相手をより微細にしりたいと思い、果てにはふたつの心と肉体をもって唯一の存在にまで高めようとするもののようにも思えます。独占欲や嫉妬心は人間として誰もが持つ性質に違いありませんが、それを顕著にするのも恋の魔法なのかもしれませんね。 人と人とを繋ぐ糸や線というものを大切に考えることは、僕はとても素晴らしいことだと思います。恋人ができると、相手との間にくっきりと一本の線がみえてくる。はじめはその線が光り輝いてみえていたのに、いつからか気づくとその線以外の線がみえないほどに、目の前には一本の線だけが存在を誇示するようになり、やがては線が線でなくなってくる……。 そうなると、人は相手の行動が自分以外のものと結びつくことを嫌うようになるでしょう。他の線の存在を認めなくなるんです。これが嫉妬であり、独占欲であろうと僕は思います。けれど、それでふたりが気持ちよく幸せへの道を歩めるなら問題ないのですが、世の中とは得てしてそのようにはできていないものなんです。 僕がウェブで書き物をするようになったのは、五年半ほど前のことでした。以来さまざまなジャンルで文章を書き現在に至っているわけですが、その過程にあって、恋人の存在が物書きの妨げになりかけたことが幾度かありました。著作に費やす時間を私に向けて欲しい、などという台詞を聞いたことこそありませんけれど、僕の文章に過去の女の影をみるのが嫌だとか、ウェブを通じて見知らぬ人たちと言葉を交わす姿をみたくないと言われたことはあります。 気持ちはわからなくもありませんが、悲しいかな僕という男は、自分が進む道に立ちはだかるものは、たとえ恋人であろうと排除する性質を持っています。いわば冷たい男かもしれません。僕自身のなかでは、それだけ創作という行為に情熱も人生も注いでいるんだという自負があるのですが、そんなものはなかなか理解もされないでしょう。恋は盲目ですから……。 さりとて、恋人に冷たいかというと、「これほど恋人に優しい男もそうそういないよ」と言葉にこそしませんが自分では思っています。ふたりのために用意した時間にあっては、およそ「世界には君と僕しかいないんだ」なんて口が浮いて天に昇るような台詞こそはきませんが、僕の視界からは彼女以外の女は消え去ってしまいます。ある種、没頭するタイプかもしれません。 そのバランスというか、僕の中での割り振りは、なかなか相手には理解しにくいものがあるのでしょうね。一緒にいるときはとろけるような時間に包まれていても、離れて各々の生活に入ると、ときに釣れない態度もとります。理由は一応説明しますし、僕の姿勢も言葉では伝えますけど、それが相手に理解されているかは別問題かもしれません。ただ僕の中には、そういう僕の人間関係におけるスタンスの存在を、せめて恋人ならわかって欲しいという願いもあるにはあるんですけどね……。 若い頃から、僕は「他人に無関心なやつだ」といわれてきました。自己中心的だとか、わがままだとか、そういうニュアンスではなく、隣の人がなにをしていようが気にしないという意味での無関心です。それは兄弟に対しても同様でして、以前はよく妻に「せめて兄弟に対してくらいは、もっと関心持ちなさいよ」と諭されたこともありました。それほど無関心なんです。 僕自身はそういう自分の性格を、「相手の人格を尊重してるからだ」と応えることにしているのですが、正直いうと、そこまで昇りつめているわけでもありません。ただいえるのは、僕は自分の存在を尊重して欲しいと常に願っています。自己顕示欲というものではなく、僕は僕なんだという周囲からの認識です。自分に対してそれを求めるならば、相手に対してもそう接するべきであろうと、僕はそう考えます。 ですから、僕はたとえ恋人であろうとも、むやみやたらと心の中に土足で踏み込んだり、僕が関与しない生活や人生に物申すなどという行動には出ないんです。そしてそれは、僕自身に対してもそうして欲しくないという、無言のメッセージでもあるのかもしれません。 いつでもどこでもべたべたしているだけが恋愛であるとは、僕には到底思えません。確かに離れているときに恋人を想うことはあります。それは当然でしょう。恋しているのですから。されどそんな想いのなかにも、自分と相手とのスタンスを常に意識している僕がいるのは事実です。 それを「盲目ではなくコントロールできている状態」と呼ぶのかどうかは、率直なところ僕にもわからないのですが、恋人だけの自分の人生ではない、しいては、妻や子供たちだけの僕の人生ではないという想いへも繋がっている気がしています。そのスタンスを、距離感を、本当に大切にできる人とは、やはりお付き合いしていても心地いいですね。
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