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2012年02月02日(木)
デーモン小暮閣下への質問「あの、へヴィメタって、なんですか?」

『聞く力』(阿川佐和子著・文春新書)より。

(阿川佐和子さんが、デーモン小暮閣下にインタビューしたときのエピソードです。「ヘヴィメタ」という音楽を「ロックの一種とは認識していたが、どんなロックかチンプンカンプンだった」という阿川さんは、思い切って、「単刀直入にデーモン閣下に直接聞いてみた」そうです)


【こうして(スタッフとの)打ち合わせ通り、私はご本人を前にして、できるだけ失礼にならないよう気をつけながら、質問してみました。
「あの、ヘヴィメタって、なんですか」
 すると、驚きましたよ。デーモン閣下は親切! しかも説明がお上手! 私のようなロックシロウト相手に、それはわかりやすく教えてくださったのです。
「ハハハ。ロックというのは、わかりますね?」
 最初に私に優しく断りを入れてから、こんなふうに話してくださいました。
「ロックがいろいろな枝葉に分かれていく中で、速さと激しさを追求したものをハードロックというんですね。♪ガンガンガンガン、ガガーンガンガーンガーン、タターンターンタ、バーンバーンバーンっていう感じ」
「ほうほう」
「じゃ、速くて激しければ全部ハードロックなのかというと、そうではなくて。そこからまた枝葉が分かれていって。速くて激しいけれど、ドラマティックであったり、仰々しい決めごとを取り入れる。たとえばクラシック音楽のワンフレーズを持ってきて、あるポイントに来たら全員がちゃんと、♪ダダダダーンみたいにベートーヴェンの『運命』のメロディをぴったり合わせる。そういうのを様式美というんですけどね」
「はあ〜」
「簡単に言うと、様式美の要素を入れないと、ヘヴィメタルとは認定されないんです。ハードロックに様式美を持ち込むと、それがヘヴィメタルになるというわけ」
「そうかあ。ヘヴィメタって知的なんだ。もっとハチャメチャな音楽かと思ってた」
「ハチャメチャなのはパンク。速くて激しいけれど、♪うまく歌ったってしょうがないじゃーん。上手に歌うことになんの意味があるんだ〜。ってのがパンク。だけど、ヘヴィメタルは上手じゃないと駄目なの」
 これは開眼でした。ロックにそういう区分けがされていたとは初耳です。確かにその前夜、「聖飢魔II」のCDを聴いて、驚いたのです。閣下は歌がうまかった。その上手な歌を聴いているうちに、もう一つ、疑問に思ったことがありました。まるで優秀な家庭教師のように教え方が上手な閣下の優しさに付け込んで、私はさらに質問します。
「CDを聴いていて思ったんですが、こうしてお話ししているデーモン閣下はものすごく低温のダミ声なのに、歌を歌っているときの閣下の声は、ボーイソプラノのように高くないですか? どうしてなの?」
 すると、この質問にも明快な答えが返ってきたのです。
「それはね、理由があるんです。あれだけの轟音で演奏している中で、低い声で歌うとぜんぜん聞こえないんですよ。高くないと声が通らないから、だからヘヴィメタのボーカルはみんな、必然的に高い声で歌うようになったんです」
 いかがですか。聞いてみるものですよねえ。こんな基本的な質問をしたら怒られるかと思って遠慮してしまった過去の数々のインタビューが、悔やまれるばかり。もちろん。お相手を選んで、「話してくれそうかなあ」と判断する必要はありますが、それにしても、「みんなが知っているふりして、実はあんまり知られていないこと」というものは、世の中にたくさん溢れているのです。そして、その根源的な質問をしてみると、ご本人が思いの外、喜んで解説してくださるケースはあるものです。】

〜〜〜〜〜〜〜

 ああ、なんて親切で説明上手な悪魔なんだ!
 正直、僕は音楽に詳しくないので、このデーモン閣下の解説が「正しい」かどうかはわからないのですが、そんな僕にもスッと入ってくる、見事な説明に感心してしまいました。

 事前に「台本」をもらっているのならともかく、対談の場でいきなりこんな「基本的なこと」を聞かれて、それにキチンと対応できる人というのは、なかなかいないはずです。
 こういうときに「俺様にそんな初歩的なことを聞くな!もっとあらかじめ勉強してこい、なんて失礼なヤツだ!」とキレる人がいても、おかしくないと思うんですよ。
 でも、デーモン閣下は、そうじゃなかった。
 
 「日本でもっとも良く知られているヘヴィメタルバンド」のボーカルとして、「ヘヴィメタルのことを、もっと世の中の普通のおじさん、おばさんたちにも知ってもらいたい」っていう使命感みたいなものもあるのかもしれません。
 デーモン閣下の知名度に比べると、「聖飢魔IIの音楽」は、いまひとつ認知されていない面がありますしね。

 それにしても、この話を読んでいると「なんとなくそんなものだと思っていたこと」にも、けっこうちゃんとした「理由」があるものだなあ、と考えさせられます。
 デーモン閣下が歌うときの声が高いのにも、「音楽的な理由」があったのだとは。
 カラオケなどで、「日頃しゃべっている声と歌うときの声が違うひと」を何人もみてきたので、あんまり疑問にすら感じていませんでした。
 デーモン閣下も、そんなふうに公の場所で尋ねられたことは、そんなにないはずです。
 音楽雑誌では、もうちょっと「専門的なところ」から始めないといけないでしょうし。

 このエピソード、読んでいると、「説明上手で教え好き」のデーモン閣下が、楽しそうに阿川さんに「解説」している姿が浮かんできて、僕もちょっと嬉しくなってしまいました。
 怒る人もいるのかもしれないけれど、とりあえず「わからないことは、思い切って聞いてみるもの」ですね。