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2010年12月02日(木)
ケンタッキーフライドチキンで、「妥当なサービスの範囲」について考える。

『週刊ファミ通』2010/12/2号(エンターブレイン)のコラム「桜井政博のゲームについて思うこと」より。

【台風がやってきたある日。素早く昼食を取るため、某所のケンタッキーフライドチキンに入りました。いわゆる店内お召し上がりで。
 あんまりフライドチキンは食べないけれど、ケンタッキーには”和風チキンカツサンド”などがある。これはハンバーガー感覚でいただけておいしいのです。
 そこで、やってしまった。
 会計を済ませ、トレイを手渡された直後のこと、手に提げていたカサが、レジカウンターに引っかかり、トレイが傾いた。滑り落ちるMサイズのコップ。バシャンと音を立てて、散らばるコカコーラ・ゼロと氷。あ〜あ、やってもうた!
 しかしすかさず店員さんが「申し訳ありません! すぐに替わりをご用意いたしますので!!」と言う。いやいやいや。いまのはわたしのせいですから! 申し訳ないのはこちらです。お代は払います。お店を汚してしまって、どうもスミマセン。しかし、「本当に申し訳ありませんでした!」。「お召し物は大丈夫でしょうか!?」と店員さん。何度か支払いを申し出たのですが、速やかにコーラの代わりを用意され、禁煙席に着いたのでした。
 お客に明らかな過失があっても、速やかにフォロー。サービス業として、行き届いているんだなぁと感心しました。こういった対処はガイドライン化されているのでしょう。少なくとも、わたしの中では、ケンタッキーフライドチキンの好感度が上がりました。
 ……と、ここまで読んでみていかがでしょう? サービス業だから当然、と思った方、手を挙げて。
 これからヒジョーに当たり前のことを書きますが。
 もしスタッフ側なら、サービスに全力を傾けるのは良いことだと思います。予測できる限りの可能性を考えておくのが良いでしょう。
 逆に、サービスを受ける側なら、お客だからと横柄に、何でも提供すべしと思うべきではありません。
 お金を払ったのだから、王様のように対応されて当然、と思い込んでしまうと、けっきょく自分で楽しみの幅を狭めてしまいます。現に、わたしは今回のことでいろいろ感心し、コーラ1杯の価格を超えた価値ありと思っているのですが、これがふつうだ、あるいはけしからんと思ってしまうようであれば、誰にも何も生み出しません。】

〜〜〜〜〜〜〜

 桜井政博さんは、『星のカービィ』や『大乱闘スマッシュブラザーズ』などの人気ゲームを手掛けたゲームデザイナーです。
 この引用部のあとには、三波春夫さんの「お客様は神様です」という言葉の「真意」が紹介されています。

 話を戻しますが、このケンタッキーフライドチキンの対応を読んで、僕も以前、映画館(有名シネコングループW)で、似たような経験をしたのを思い出しました。
 上映前、妻と2人で飲み物とポップコーンを買って席につこうとしたのですが、誤ってトレイをひっくり返し、ジュースとポップコーンを床にぶちまけてしまったのです。
 映画が始まるまで、あと10分あまりという状況で、僕たちは、映画館のスタッフに「床を拭くための道具を貸して欲しい」と声をかけました。
 すると、スタッフの若い男性は、手早くその場を綺麗にしてくれて、そのうえ、新しいポップコーンと飲み物まで「どうぞお召し上がりください」と持ってきてくれたのです。
 「いや、こぼしてしまったのはこちらですし、掃除をさせて、新しい商品までいただくわけには……せめて、新しい商品のお金くらいは払わせてください」とお願いしたのですが、「お気になさらずに、映画をお楽しみください」と、結局、お金は受け取ってもらえませんでした。
 もちろん、僕たちのなかでは、「感謝」の気持ちが強かったのですけど、それと同時に「本当にこれで良かったのだろうか……そこまでしてくれなくても……」という違和感があったのも事実です。

 桜井さんの場合は、「トレイを渡された直後」でしたから、店員さんも「自分のトレイの渡しかたが悪かったのではないか」と思った可能性はあります。実際に、そういうシチュエーションでは、とりあえず店員さんにクレームをつけるお客さんだっているのではないでしょうか。
 アメリカみたいに、「コーヒーが熱くて火傷したから損害賠償」というレベルの話は、幸いにして日本ではまだ耳にしませんが、店側だって、「コーラ1杯」ならば、余計なトラブルの種になるよりは、新しいものを出して(自分たちに責任が無い場合でも)、お客さんに謝っておいたほうが「無難」でもあるはずです。
 僕が聞いた話では、ファストフード店でのコーラなどのソフトドリンクの値段は、「限りなくタダに近い」らしいですし、ポップコーンも、そんなに原価が高い商品ではないでしょう。
 店の掃除だって、慣れない客がダラダラ掃除するよりは、手馴れた店員がサッとやってしまったほうが、はるかに「手がかからない」のかもしれません。
 そういう「サービス」によって、店のイメージは、間違いなく良くなりますしね。
 人は、困っているときに優しくされると、やっぱり嬉しいものだから。

「じゃあ、ドリンクやポップコーンなら『交換』してくれても、ハンバーガーやチキンだったらどうなのか?」とも思うのですが、まあ、そういうことを試してみて、仮に新しい商品をもらえたとしても、気まずさ以上に「お得」ということはまずありえません。

 僕個人としては、「掃除する道具を貸してもらえれば十分」ですし、鉄の斧を落としたら、金の斧がもらえるようなサービスは、なんとなく「居心地が悪い」のですけど、桜井さんが書かれているように、そこで、「店のサービスに感動する人」が多数派だからこそ、店側も、そういう対応をしてくれているのも事実なんでしょうね。
 
 しかし、「どこまでがサービスとして妥当なのか?」というのは、かなり難しい問題です。「際限のないサービス競争」は、結果的にはあまりみんなを幸せにしないような気がするのです。
「お客さま」だって、自分が仕事をしているときは、「店員さん」になることもあるわけだし。