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2010年10月12日(火)
「恋愛の達人」と「生まれてこの方浮気したことない男」

『のはなしさん』(伊集院光著・宝島社)

【よく呼んでもらっているトーク番組。大先輩お笑い芸人の仕切る中トークは盛り上がる。途中デブネタの中心もさせてもらいつつ、話題は恋愛の話、そして前述の「男だったら浮気して当たり前」展開に。隣の席に恋愛の達人的な男性芸能人がいたこともあり、僕は早めにバントの構え。ところが、この恋愛の達人が「そうだよね、このケースだったら、手を出さない男はいないよね」と僕に振ってきたから困った。
 正直に書いてしまうと、僕は「男は浮気するのが当たり前」というトークと同じくらい、スキャンダルの多い男性を「恋愛の達人」とする空気にも不満を持っている。勿論すっぱいぶどうのやっかみ9割でだが「いっぱい恋愛してるってことはいっぱい別れてるってことだろう、まして離婚をなんどもして、前のかみさんには子供もいて『恋愛の達人』ってことは、ないだろう。しかもこの人すげえ自負してて、アドバイスとかしてくるし、うちの親父の方がブサイクなかみさんもらって浮気もせずに半世紀、1打数1ポテンヒットの10割バッターだぞ、よっぽど達人だ…まあ、あの瓶底眼鏡のおっちゃんが恋愛の達人ではないまでも、あんたはせめて『いっぱい綺麗な人とやってる人』くらいのキャッチフレーズで止めておけよ!」とか思ってる。しかし、僕のすっぱいぶどうは広大なぶどう園だな。
 直接振られてしまった以上、何かいわないと全肯定になっちゃうと思った僕は、思わず自分の脳内から出ていたバントのサインを無視して、思い切りバットを振った。
「僕、生まれてこの方浮気したことないんで」
「ええ!?」っと驚く達人。「ほんまかいな?」と司会の大先輩芸人。
「もうどうにでもなれ!」と「まあ、モテないんでチャンスがなかったってのもありますけど、僕、かみさんがもし死んだら、次の日死ぬかも知れないって思ってます!」
こんなのが口から出た。
 この言葉に大先輩はウケてくれた上に、キチンと流れを戻してくれて、そのまま盛り上がって番組収録は終了、かなり長時間に渡って様々な話題を撮ったので、カットされるだろうと思ったのだが、キチンと放送されたらしく、かみさんが「買物に行ったら八百屋のおじさんがね『昨日テレビ見たけど俺も母ちゃん一筋だ!』ってのろけてたよ、ペット病院でも冷やかされたよ。でも、そんなに好きなら、死ななくていいから脱いだ靴下を洗濯カゴに入れてね」などといってきた。「照れくさかったけどいって良かった」と思った。】

〜〜〜〜〜〜〜

 僕も「浮気したことがない男」なので、この伊集院さんのエッセイには勇気づけられましたし、「うんうん」と頷きながら読みました。
 まあ、それも「モテないんでチャンスがなかったから」ではあるんですけどね。
 実際に、魅力的な女性があちらから寄ってきたら、本当に「断固お断り」できる自信はあんまりないかもしれません。
 それでも、「何度も浮気をしたり、相手をとっかえひっかえしたり、子どもをつくっては離婚したり」というのが「恋愛の達人」っていうのは、僕もおかしいと思うんですよ。
 そんな、周りに迷惑をかけてばかりの「達人」って、ありえないだろう、と。
 たしかに、ちょっと羨ましい、と感じるところもあるのですけど。

 しかしながら、「男同士の会話」のなかで、「そうだよね、このケースだったら、手を出さない男はいないよね」という流れになってしまったら、「そんなことないだろ」と言い切れる男はそんなにいないと思うんですよ。「据え膳食わぬは男の恥」なんて言葉もあるくらいで、「男らしさ」と「性的な奔放さ」というのは、リンクしているイメージがあるのです。
 そのケースで、「オレは手を出さない」なんて言ったら、場も白けるし、仲間内で「男らしくないヤツ」と認定されるのではないかと不安になるんですよね。
 それを、テレビ番組のなかで、「浮気したことないし、嫁さんが死んだら翌日に死ぬ」と言い切った伊集院さんは、本当にすごい。
 オンエアされないだろうと思っていたのだとしても、テレビのトーク番組のなかでは、「異質」な立ち位置だろうし。

 ただ、僕は「浮気をするかどうか」というのは、モラルやパートナーへの愛情の問題だけではなくて、その人の「生命力」とか「精力」みたいなものが大きな因子ではないかとも感じています。
 僕が「浮気をしない理由」は、妻や子供への愛情だけではなくて、「浮気をして、ただでさえめんどくさい人生を、さらにめんどうなものにしたくない」という「現状維持がラクでいいという気持ち」が大きいのではないかと。ずっと同じ相手なら、いちいちあれこれと説明しなくても良いですしね。
 その一方で、「同じ相手とずっといると飽きる」あるいは「相手がひとりだと、精力をもてあましてしまう」というタイプの人もいるみたいです。
 「刺激が無い関係」に耐えられない、という人は、確実にいるようで、これはもう「モラル」というより、「人種の差」のようにすら感じるのです。

 僕個人としては、「浮気をしないのも人生だし、『恋愛の達人』にはなれなくても、穏やかに暮らせれば、それが一番いい」というのが正直な気持ちで、それは「生まれつきの趣向」でしかなくて、「素晴らしい」とか「真面目」って褒められるようなものじゃないな、と考えています。
 まあ、そんなことを言いながらも、死ぬまで浮気しないかと問われたら、「絶対」とは言いきれないのが、恋愛の難しさ、ではあるんですけどね。

 ちなみに、このエッセイ、このあと、伊集院さんのもとに「本物の『恋愛の達人』からのメッセージ」が届きます。
 どんなものか気になる方は、ぜひ『のはなしさん』を読んでみてください。どこにでもある話なのかもしれないけれど、僕も読んで感動しました。
 『のはなしさん』の、いちばん最初に載っているエッセイです。