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2010年08月18日(水)
AV界の帝王・村西とおる監督の「新人女優をビデオ出演させる口説きのテクニック」

『心を開かせる技術』(本橋信宏著・幻冬舎新書)より。

【応酬話法というコミュニケーション技術があります。
 主に営業の世界で、新人に教育される、営業用トークのことで、営業マンならたいてい、マニュアル本を渡されて、先輩社員からしごかれるものです。
 客からの質問や反応に応答するための基本的なセールス・トークで、最も大切な話法です。
 セールスするとき、客が「いま、欲しいものではない」と答えれば、営業マンが「いまのうちから備えておいたほうが差がつきます」と対応する。あるいは「ちょっと高いからいりません」と断られた場合、「使い方次第で、どんどん割安になります」と答える。
 このように、どんな客の断り方でも、対応して商品を売るトークを応酬話法といいます。
 基本は、この商品を持つことによって、あなたはメリットを享受できる、ということをどんな方向からでも説明できることです。
 そしてこの話法をさらに磨き上げ、究極の応酬話法に仕上げ、成り上がっていった人物がいます。
 AV界の帝王と呼ばれた、村西とおるです。
 彼は福島県の工業高校を卒業後、池袋の「どん底」という飲み屋で働き、後に百科事典や英会話教材のセールスマンになります。持って生まれた話術が花開き、月に4セット売れれば上出来の世界で、月に40セット売り上げる、という驚異的セールスを達成します。
 彼が秀でていたのは、単なるセールストークの応酬話法を、生きていく上での決定的な話法として完成させた点でした。
 「だいたいお客が断る理由というのは、たくさんあるようにみえて、実際は5つか6つ、いや、もっと絞り込めば3つ程度なんですよ。
 ちょっと高い。いまは必要じゃない。興味がない。商品セールスの場合、だいたいこの3つなんです。だったら、この3つに対しての答え方を準備しておけばいい。あとはその応用なんです」
 彼は後に、村西とおるというAV監督になるのですが、当初は素人の悲しさゆえ、まったく売れない時期がつづきます。
 横浜国立大生黒木香との共演作「SMぽいの好き」が世間を騒がせ、AV界の帝王といった異名を持つようになるのですが、村西監督が異彩を放ったのは、新人女優を相次ぎビデオ出演させる口説きのテクニックでした。
 他の監督ではなかなか首を縦に振らなかったOLや女子大生が、村西監督の面接にかかると、あっけなく出演を承諾してしまう。
 いったい彼の口説きとはどんなものだったのでしょうか。
 多くのビデオ関係者が悔しがった村西とおるの説得術というのが、彼が完成させた応酬話法だったのです。
 前章で述べたように、AVに出ようとする子たちは、ほとんどが親に内緒で出ようとします。彼女たちにとって、最も頭を悩ませる問題が、親に知られる恐れ、いわゆる“親バレ”です。
 村西監督は、面接のときに応酬話法でどう切り出すのでしょう。
 いきなり両親の話を持ってくるのです。
「素晴らしい! とてもチャーミングな笑顔、そしてそのナイスなバディ。素晴らしいですよ。こんなファンタスティックなスタイルは、不肖村西とおる、いまだかつて見たことがありません。素晴らしすぎる! そのバディ、張りそってます、張りそってますよ。うーん、ナイスですね。でもね、いいですか。あなたのその素晴らしい肉体は、決してあなたが努力して築き上げたものではないんですよ。あなたの素晴らしい肉体は、ご両親からいただいたもの、ご両親があなたを産み育てたからなんです。あなたはまずお父さんお母さんに感謝してください。わかりましたね。あなたの努力はその後なんです。これからなんですね」
 この会話にはすでに応酬話法のすべての要素がふくまれています。
 まず、いきなり最大の問題点である親バレについて避けることなく、みずから冒頭に持ってきています。親の問題を避けることなく、あえて話題のテーマに掲げるところに、村西監督流応酬話法の凄みがあります。
 お父さんお母さんの存在によってあなたが生まれた、という事実を認識させることで、女の子が抱いている親バレの恐怖をいきなり払拭してしまいます。】

〜〜〜〜〜〜〜

 名インタビュアーとして知られる本橋信宏さんが、村西とおる監督から得た「村西とおる流・口説きのテクニック」。
 この項で、本橋さんは、村西監督の「応酬話法のポイント」として、

(1)最大の問題点を後回しにすることなく、冒頭に持っていく。
(2)問題点を逆にメリットに変えてしまう。
(3)自己の存在を刺激する。
(4)相手を徹底して賞め称える。
(5)ユーモアを忘れない。
(6)運命的な縁を感じさせる。

という6つを挙げておられます。
なるほど!と思いつつも、これを徹底的に実行するのはかなり難しいことですし、それができたからこそ、村西とおる監督は「帝王」になれたのでしょう。

 この話を読むと、誰かを「説得する」ときに、僕がいままでとってきた態度や話し方は、あまり効果的ではなかったということがよくわかります。
 仮に、僕がAV出演を口説く機会があったとすれば、まず、「親は親、あなたはあなただから、親のことは関係ないですよ」とか言ってしまいそう。
 でも、もし自分が口説かれるほうの立場だったら、そんなふうに言う人を信頼できるかというと、「他人事だと思って、適当なことばっかり!」って不信感を抱くと思います。
 有名になるため、お金を稼ぐため、あるいは自己表現のためにAVに出るのだから、成功すればするほど、”親バレ”は避けられないはずだし。
 まあ、村西監督だって、「内心出演しようかなと思っている女性を勇気づけ、一歩前に踏み出させている」だけで、本当に親に対して責任を取っているわけではないでしょうけどね。

 実際に、僕がこんなふうに女性を「口説く」機会は無いとは思うのですが、この「村西とおる流・口説きのテクニック」は、うまく使える人にとっては、すごく便利なはず。
 そして、他人を「説得する」場面においても、「相手が不安に思っていることを誤魔化したり、話題にするのを避けるよりも、あえて、『そこに斬り込み、相手をこちらのペースに引き込んでしまう』ことも、不可能ではない」のです。
 いや、もちろん「誰にでもできる」ってわけじゃないし、村西監督だって、狙った相手を全部ビデオに出演させることはできなかったとは思います。
 それでも、「こういう説得法もあるのだ」というのを頭に入れておいても損はないはず。

 そう言いながらも、僕は内心、こんな「そのバディ、張りそってます、張りそってますよ。うーん、ナイスですね」なんて口説き文句で、脱いでしまう女性が大勢いたというのが、信じられない気持ちもあるんですけどね……
 だからこそ、「誰もマネできない」のかもしれませんが。