初日 最新 目次 MAIL HOME


活字中毒R。
じっぽ
MAIL
HOME

My追加

2010年07月04日(日)
尾田栄一郎さんの「少年たちに向けて”少年マンガ”を描き続ける」ことへのこだわり

『マンガ脳の鍛えかた』(取材・文:門倉紫麻/集英社)より。

(『週刊少年ジャンプ』の人気マンガ家37名への総計15万字のインタビューをまとめた本。『ONE PIECE』の尾田栄一郎さんへのインタビューの一部です。「」内は尾田さんの発言です)

【「ONE PIECE」は、自身が言うように”王道”の少年マンガだ。
 主人公・ルフィは、子供ならではの快活さにあふれ、脇を固める大人たちは、しっかりと大人の領分を守る。ありそうで中々見られない、そんな美しい関係性も魅力のひとつだ。

 「それが僕の理想なんだと思う。『子どもはもっと子どもらしくしなさい、大人はもっとしっかりしなさい』と思っているのかもしれない。僕はすごく普通のことを描いていると思いますけどね。昔ながらの”少年マンガ”ってそういうものでしょう。今の社会では、大人が子どもっぽくなってきているから、僕のマンガが珍しく感じられるだけなんじゃないですかね」
 尾田は一貫して「少年たちに向けて”少年マンガ”を描き続ける」と言い続けてきた。

 「今もそう思っています。長くやっていて一番思うのが、読者はどんどん成長していくものだ、ということ。でもそれに作者が流されないことが大切なんです。読者に合わせていくと、マンガもどんどん大人っぽいものになっていくでしょう。そうしたら、次の少年たち――”新入生”が入れなくなっちゃうじゃないですか。固定ファンだけが喜ぶようなマンガになってしまう。読者は、循環していいんです。僕は、”少年マンガ”の読者は大人になって出ていくものだと思っているから、常に今入ってきた少年たちが喜べるかどうかを考えている。その照準がブレなければ、”少年マンガ”は大丈夫だと思いますけどね。これは、長くやってきて、いろんな時期を経験し壁にもぶつかって、反省も踏まえて出てきた答えなんですよ」

 尾田自身も、描いていて「新入生が入って来なくなった」と思った時期があったのだという。

 「これはいかん、と思って『とにかく少年たちに向けて描くんだ』という意識に立ち返ったんです。大体5年周期くらいで読者は入れ替わる気がしますね。だから『ONE PIECE』はこれから第3期生ぐらいをお迎えする頃じゃないかな(笑)」

 これから先、マンガはどうなっていくと思うか、という問いに、「”少年マンガ”と区切っていいのなら」と前置きして、こう答えた。

 「何も変わらないと思います。少年がゾクゾクするものって、昔からまったく変わっていない。子どもの頃の僕がこれを読んでも喜ぶはずだ、と思えるものを提出すれば、間違いなく今の子どもたちもおもしろいと思ってくれる。たしかに、マンガ界の傾向が変わってきていることは感じたりはしますけど……うん、でもやっぱり変わっちゃだめなんですよ。変わらないというと、古いものを描き続けるイメージかもしれないですが、僕が言っているのは、そういうことではない。むしろ”斬新な”ものは、必要なんです」

 変わらない、けれど、斬新であり続ける。一見相反するもののようだが……。

 「うーん、具体的に言うと、僕が”海賊マンガ”という今までにない斬新なものを世に送り出して読者が食いついてくれたあの瞬間――『ONE PIECE』を送り出そうと思ってがむしゃらに新しいことをやっていたあの瞬間の必死な状態を、ずっと変わらずに続けていかなければいけない、ということです。時代が変わっても、少年たちが”少年マンガ”に斬新なものを求める状態は変わらない。だから作家も、常に斬新でおもしろいものを作り続ける状態を保っていなければならない――いわば”保持”していなければならないんです」

 つまり、保持していくためには「常に”前進”し続けていなければいけない」ということ。

 「それなのに、一度人気が出たら惰性でそのままの状態を続けていけばいい、と錯覚してしまう人もいるかもしれない。でもそうなった時点で、それはもう保持ではなくて”後退”なんです。同じものを出すということは、古いものを出すのと、同じことです」】

〜〜〜〜〜〜〜

 尾田栄一郎さんは、1975年生まれ。『ONE PIECE』の連載が、『週刊少年ジャンプ』ではじまったのは1997年で、同作品は、現在もジャンプの「看板」として君臨し続けています。「人気が無い、あるいは無くなってしまったマンガは打ち切り」というジャンプのシステムのなかで、これだけ長期間の人気を維持し、連載を続けてこられているのは、本当に凄いことだと思います。

 このインタビューでは、尾田さんの「少年マンガ」に対する愛着と「少年マンガ家」としての矜持が語られているのですが、「読者の成長に、作家が流されないようにする」「読者は、循環していいんです」という言葉は、ちょっと意外に感じました。

 多くのマンガ家は、「読者とともに成長する」あるいは「変化していく」ように思われます。
 僕が子ども〜学生の、いちばんマンガを読んでいた頃の人気マンガ家には、「少年マンガ」から撤退し、大人になった「昔の読者」に「昔の作品の続編」を描き続けている人がたくさんいます。
 もちろん、その作品にも新しく入ってきた読者はいるのでしょうけど。

 それらのマンガ家たちだって、読者の成長に付き合って、「昔の作品の続編ばかり」になるよりは、『ジャンプ』のような、部数の多い「少年マンガ」の最前線でやっていきたい人はたくさんいたはず。
 でも、現実は甘いものではなくて、自分が年を重ねていくのに、ずっと「いまの少年がゾクゾクするもの」を見つけ、描き続けていくというのは、大変なことなんですよね、きっと。
 結局、僕が子どもの頃から『ジャンプ』で生き残っているのは、「少年向け」ではない『こちら葛飾区亀有公園前派出所』ですし。

 作者はこんなふうに仰っておられるのですが、僕の周りには、『ONE PIECE』好きな大人がけっこうたくさんいるんですよね。尾田さんは「少年」という言葉を繰り返して使われており、「男子」を想定しておられるようなのですが、女性の読者もた大勢知っています(僕の妻も30代前半ですが『ONE PIECE』大好きです)。
 「広い世代の読者にウケよう」とか、「今までの読者と新しい読者の両方にサービスしよう」なんて思っていると、かえって、中途半端な作品になってしまうのかもしれませんね。

 それにしても、もう連載13年か……
終わりそうな気配は全くないのですが、『ONE PIECE』、どこまで続くのでしょうか。