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2010年05月30日(日)
「古本市」は、大人たちの戦場だった!

『本の雑誌』2010年6月号(本の雑誌社)の「特集=古本お宝鑑定団!」より。中嶋大介さんのエッセイ「古本○○(まるまる)話」の一部です

【東京のコアな古本ファンは、関西の人たちよりも熱心だと思う。なぜそう思うかというと、3〜4年前、はじめて高円寺にある西部古書会館の古本市に行った時に見た光景が忘れられないからだ。ここの古書会館は、靴を脱ぎスリッパを履いて会場にはいらなければならない。その靴を脱ぎスリッパを履くというわずか十数秒が惜しい。その数十秒のスキに他の誰かに自分がほしい本を抜かれてしまうんじゃないかということで、開場する数分前から靴を脱ぎスーパーのレジ袋を巻いてスタンバイしている人がいたのだ。その気持ちもわからないでもないけど、やっぱり「そこまでしなくても…」と思う。
 五反田の南部古書会館で開催される古本市も同様にお客さんが熱かった。開場は9時半で、その時間までは会場にお客さんが入らないように白いビニールテープが張られている。手にとることはできないが、どんな本が並んでいるのかみることはできる。強者たちは、双眼鏡を持参して開場前からどんな本があるのか細部までチェックしているのだ。開場前から戦いははじまっているということを思いしらされた。
 あと、これは全国どこでも変わらないと思うが、デパートの古本市の場合、いかに古本市の会場にたどり着くかということで、戦略が必要になってくる。エレベータの陣取り合戦もおもしろい。当たり前のことだけど、最初に乗ってしまうと出るのは最後になってしまう。いかにして最初のエレベータの最後に乗り込むかがポイントになる。また、体力に自信がある者は、エスカレーターを走って上がるという作戦もあり、がんばればこっちの方が早いと思うが、コアな古本好きはおじさんが多いので、この作戦をとる人は少ない。
 こういう光景をはじめてみた時は、おどろいたが、今ではふつうのことのように思えてしまう自分がこわい。ぼくもそのうち、足にレジ袋巻いてスタンバイしているかもしれない。】

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 ブックオフやAmazonなどのネット書店の影響で、昔ながらの「古本屋」は苦戦しているという話を聞いていました。
 でも、「コアな古本好き」というのは、滅びていないどころか、こんなに元気な人たちもまだまだ存在するんですね。
 Amazonで買えないような本を探す機会すらほとんどない僕にとっては、こうして「古本市」に集まって、熱いバトルを繰り広げる人たちがまだまだ大勢いるというのは驚きでした。
 「古本コレクション」というのは、すっかり落ち着いた大人の趣味というイメージがあったのですが、この話を読んでいると、僕が子供のころ、「ガンプラ(ガンダムのプラモデル)を買うためにデパートの前でやっていたこととそんなに変わらないみたいです。
 「貴重な古本」というのは、まさに「目の前の一冊」しかないのですから、買い逃してしまったら、もう二度と手に入らないかもしれない。ゲーム機のように、待てばいずれは同じものが買えるという世界じゃないものなあ。
 まあ、僕もこれを読んでいると「いい大人がそこまでしなくても……」とは思いますけどね、やっぱり。

 それにしても、エレベーターというのは、こういう観点でみると、すごく不公平な乗り物のような気がします。ドアが開いたときに前にいる人ほど奥に入らなければなりませんから、必然的に、出るときには順番が遅くなってしまう。でも、だからといって、みんなが「最初のエレベーターの最後に乗る」わけにはいかないでしょうし、一つ間違ったら、次のエレベーターになってしまう。
 この、大人たちの「エレベーターの陣取り合戦」を、一度物陰から覗いてみたいものです。
 結局のところ、いくつになっても、どんなジャンルでも、「マニアの執念」というのは変わらないのかもしれませんね。