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2009年01月20日(火)
あなたにとって「お肉」とは牛肉? 豚肉?

『天ぷらにソースをかけますか?―ニッポン食文化の境界線―』(野瀬泰申著・新潮文庫)より。

(日本国内でのさまざまな食べ物の「地域性」をネットでのアンケートで調べた『NIKKEI NET』の連載記事をまとめた本の一部です。

あなたにとって「お肉」とは牛肉? 豚肉? それとも……。

という設問について。)

【今回は「お肉」について考える。設問にある通り、あなたにとってお肉といえばどんな肉を指すかということであり、地域分布とその理由を考察するのが今回の目的である。

(中略)

 西の牛、東の豚ということが漠然と言われる。それに関する声から聞いていこう。
 まず「兵庫県出身女性昭和生まれ」さんは「肉といえば牛肉。塊でドンとあるのが理想です。牛肉→国産→但馬牛→塊肉→ヘレ1本」と簡潔かつ明快に答えてきた。
「大阪では肉といえば牛がデフォルトです、豚はブタ、鶏はかしわかトリ。肉ジャガなら牛肉でしょう。肉うどんなら牛肉でしょう。焼肉と聞いて焼いた鶏肉を思い浮かべませんね、まず」と「大阪生まれ新宿区在住の小島」さんも言い切る。

(中略)

「愛媛生まれ神奈川在住」さんの文章には笑ってしまった。「大阪出身の友達がダイエットするとき『肉絶ち』を宣言しました。しかし言った当日に豚肉を食しているので聞いたら、彼女の常識は肉=牛。豚肉は豚、鶏肉は鶏で、扱い的には魚と同じだそうな。そんな彼女は肉ジャガにも牛肉を使っていました。彼女が豚肉を使うのはギョウザのときのみでした。彼女は『肉星人』を名乗っていました」。

(中略)

「私の実家(福島)で肉といったら豚肉で……父親の干支が酉で『共食いは避ける』といった変な主義もあり、鶏もあまり食卓には上りませんでした。ちなみに実家で焼き肉といったらラム肉(!)&豚肉でした」(ドナ・ドナの娘さん)

(中略)

 ここまでですでに西の牛、東の豚が十分に明らかだが、この違いが微妙な認識のゆらぎを生む。ときに「文明の衝突」に発展することも。

「生まれも育ちも長野県ながら『付き合った相手が兵庫』の時代が数年あった私が感じたことは、地元で肉はやはり豚だったこと。それと関西では肉は牛肉であることです。前に『肉が食べたい』と言われ私が豚肉料理を作ったら『こんなもん肉ちゃうわ』と散々怒られました。そんなに怒らなくてもいいのにと思いましたが、非常に重要なことだったようです」(CATBOXさん)という事態さえ招く。「福井県在住二十七歳兼業主婦」さんも似たような体験を報告してきた。
「主人はすき焼きはもちろん、カレーや焼きそば、豚キムチまで牛肉を使います。新潟出身の私はお肉といえば豚肉だと思っているので福井出身の彼とは夕食を巡りしばしば意見が対立することもありました。最近は私は妥協しつつありますが、やっぱり牛キムチより豚キムチのほうがおいしいと思います」
「広島県在住。昭和30年代は小学校低学年」さんからは「学生時代を大阪で過ごしましたが、アルバイト先の料理屋でお昼のまかないに豚肉が出たとき『やった! 今日は肉や』と言った瞬間、『違うで、これは豚や』と言われて、一瞬何のことやらわからず絶句しました」という体験談をいただいた。
 お読みいただいいているように関西人の肉=牛へのこだわりは、東日本勢の声を掻き消す勢いがある。そのパワーは「牛カツ」にも及ぶ。
「関西人です。関東の肉屋さんの総菜コーナーには牛カツ(ぎゅうかつ。厚さ5ミリ程度の牛肉のフライ、ビフカツとは別)が存在しないと聞きましたが本当でしょうか・東京の人間にビフカツと言って笑われたことがあります。ビーフカツと言うらしい。またテキ(ビフテキのこと)が通じなかったこともあります」(わたなべさん)。

(中略)

 お肉問題のVOTE速報値が届いた。数字をざっと眺めただけで「うわー」となった。西の牛、東の豚という従来言われていた傾向がはっきり出ているのである。予想以上の鮮明さに驚いている。
「お肉といえば牛」という回答が多かった上位十地域を順に並べる(数字は%)。奈良・徳島・高知(100)、京都・兵庫(89)、滋賀(88)、山口(87)、和歌山(85)、愛媛・大阪(82)。
「お肉といえば豚」の上位十地域は群馬(86)、福島(82)、新潟(70)、宮城(68)、茨城(67)、青森(61)、岩手(60)、栃木・山形・沖縄(56)
「お肉といえば鶏」が20%を超えたのが鳥取・宮崎(33)、島根・沖縄・山梨(22)、岐阜・佐賀(20)、だった。北海道で「羊」が15%となったのはジンギスカンとの関連でよくわかる。】

〜〜〜〜〜〜〜

 この本には、日本地図を実際に色分けしたものが載せられているのですが、これが見事に新潟・長野・静岡以東は「豚」がトップ、富山・岐阜・愛知以西は「牛」がトップになっているのです(なぜか、東日本でも東京・埼玉・神奈川だけは牛がトップなのですが)。

 西の牛・東の豚、という言葉は僕も耳にしたことことがあります。
 でも、ここまで明確に日本の東西で色分けされているとは、思ってもみませんでした。

 僕は物心がついてから広島県に小学校まで在住、それ以降は九州にずっと住んでいます。
 「肉」といえばこれ!みたいなこだわりはとくになく、「牛肉」「豚肉」「鶏肉」みんなそれぞれ「肉」。「焼き肉は牛、トンカツは豚、から揚げは鶏だろ」というくらいのものです。「今日はお肉よ〜」と言われて、出てくる肉が牛・豚・鶏のどれでも、「こんなの肉じゃない!」ということにはなりませんでした。
 そういえば、子供のころは、「牛肉は御馳走」というイメージがあって、吉野家の牛丼も、「牛肉がこんな値段で食べられるなんて!」と驚いた記憶があります。

 ここで紹介されているさまざまなアンケートの答えを読んでいると、僕がいままで「当たり前」だと思っていた「肉」というものへの概念は、けっして「日本全国にあてはまるもの」ではないということがよくわかりました。
 なかでも驚いたのは関西(とくに大阪)の人たちの「肉=牛」というこだわりのすごさ(もちろん、大阪の人はみんなこんな感じ、というわけではないのでしょうが)。
「豚肉は豚、鶏肉は鶏で、扱い的には魚と同じ」とか「『肉が食べたい』と言われ私が豚肉料理を作ったら『こんなもん肉ちゃうわ』と散々怒られました」とか「アルバイト先の料理屋でお昼のまかないに豚肉が出たとき『やった! 今日は肉や』と言った瞬間、『違うで、これは豚や』と言われた」とかいうようなエピソードを読むと、「大阪っていうのは同じ日本なのか?」と思わずにはいられませんでした。それにしても、関西人はそんなに豚肉が嫌いなんでしょうか。

 松坂牛、但馬牛のような「ブランド牛」は西日本に多いようですし、「おいしい牛肉が食べられるから」なのかもしれませんが、この「『肉』に関するギャップ」のことだけを考えても、生活習慣が違う地域の人たちと一緒に生活するというのは、けっこうストレスになりそうです。夫婦であれば、いつもお互い別々のものを食べるわけにもいかないはず。「牛肉の豚キムチ」なんて、僕はけっこう辛いなあ……

 「そうやってお互いの良いところを摂り入れてきた」面もあるのでしょうけど、日本というのは、僕が考えているよりも広い国なのだなあ、ということをあらためて思い知らされるエピソードの数々でした。